毎日新聞
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人々を魅了する野心的な目標を掲げ、世界を驚かせるような発見や成果を生み出す。今年度、政府が始めた「ムーンショット型研究開発制度」の狙いだ。5年間で約1000億円の予算が用意された。
この風変わりな名称は、ケネディ米大統領が「1960年代のうちに月に人を送り、安全に帰す」と演説したことにちなむ。成功は約束されないが、目指す過程で多様な成果が生まれ、人材が育つと期待される。
今回、政府は25の目標例を公表した。公募した約1800件の意見を基に、SF作家やアーティストも交えた議論でとりまとめた。
惑星間宇宙飛行に向け、人工冬眠技術を確立する。地球上からごみをなくす。世界を旅行し社会活動もする分身ロボットを開発する。一読して、どれも実現は難しそうだ。
国内外の専門家の意見を踏まえて年内に数件まで絞り込むが、そもそも、これらの技術がかなえる未来を望むかどうかは人によって異なる。哲学、倫理、法律など人文・社会科学的見地からの検討が欠かせない。
制度の背景には、低迷する日本の研究力を再浮揚させたいとの思惑がある。「科学技術の司令塔」を自任する内閣府が次々と打ち出してきたイノベーション政策が、狙い通りの成果を上げていないのだ。
専門家からは「研究が小粒になった」との指摘が出ている。行き過ぎた成果主義や競争主義が現場を萎縮させた。見込み違いの戦略への集中投資で、基礎研究がやせ細った。
新制度は官僚的な介入を極力減らすという。基礎研究へも同規模の支援をすると約束した。米中や欧州連合が同じ発想で大がかりな投資を計画していることも意識している。
しかし、これまでの政策の失敗を総括しないまま、新しい計画に飛びつくのは早計に過ぎないか。戦略を決めて巨額投資を行う枠組み自体は従来と変わらず、民間企業との役割分担も不透明なままだ。「夢物語に1000億円もの税金をばらまいている」との批判を受けかねない。
世界を一変させるようなイノベーションを国主導で生み出すのは難しい。研究者の自発的な挑戦を支え、多くの人々が待ち望む未来につなげる土台はいかにあるべきか、冷静に議論してほしい。
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