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文学に陰あり

庄野潤三「愛撫」 大山の夜、よるべなき不安 /島根

 作家、庄野潤三の名は、大阪本社の編集局に飛び込んできた訃報に接して初めて知った。2009年9月のこと。翌日の朝刊に載った東京学芸部発の訃報記事の大きさを見て、おのが不明を恥じ、代表作「夕べの雲」(1965年)を読んだ。その驚きは今も鮮明である。

 まだ田舎だった多摩丘陵で暮らす「大浦」とその「細君」、3人の子どもたちの5人家族の日常のスケッチと言っていい。61年に40歳で川崎市の生田に引っ越した庄野が、身辺をモデルに書いた。丘のてっぺんにある家ゆえ、風に飛ばされないように庭に風よけの植物を植えたり、子どもたちの宿題を手伝ったり、ムカデが出て困ったり、地元名産の梨を買って食べるのに夢中の息子を心配したりといったことが、小学生でも読める平明な言葉と文章でつづられる。とぼけたユーモアに、何度も噴き出した。

 夫婦や親子、きょうだいの間の愛情がにじみ出る。だが、もしそれだけならば家族の大切さを教え諭す童話になってしまう。「大浦」は何でもない日常を守る努力をしていて、この底がいつ抜けるかもしれないという不安を抱えている(直接には書かれないが)。為政者が言うウソに大衆が踊って大日本帝国が滅びた記憶が生々しい時代。穏やかな本作にそこはかとない緊張が漂うのは、「大浦」が「絶対平和」の信念を抱いているからだと思…

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