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そこが聞きたい

部落差別問題のいま 罰則付き禁止法制定を 部落解放同盟中央本部執行委員長・組坂繁之氏

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 参院選に日本維新の会公認で立候補予定だった長谷川豊氏(44)が6月、被差別部落への差別を助長する発言をしたため出馬を断念した=1。他方、インターネットなどでは被差別部落に対するヘイトが目立つ。部落差別の現状などを、最大の当事者団体である部落解放同盟=2=の組坂繁之・中央本部執行委員長(76)に聞いた。【聞き手・鈴木英生】

――長谷川豊氏の発言について、どう思われますか?

 「自分はタブーを打ち破れる」と人気取りをしたかったのかもしれないが、本当にとんでもない。維新の創設者である橋下徹・元大阪市長も、じくじたる思いだろう。長谷川氏は、差別発言の発覚後のブログでも、江戸時代の制度について「士農工商の下に被差別階級があった」という学説が近年は否定されている点だけから、差別自体がなかったかのように話を飛躍させている。昔から、「彼岸過ぎての麦の肥は効かぬ」(分別があると思い込んだ大人に意見をしても効き目はない)というが、それにしてもひどい。

――維新の対応については?

 公認を「取り消した」(取り消し決定直前に本人が辞退)のは、「まあまあ」。私は、除名が妥当だと思っていたが。ともあれ、あんな人を公認しようとした維新の責任は重い。今後、維新は党内に人権委員会を作るという。どんなものになるのか注視したい。また、長谷川氏は、以前勤めていたフジテレビで十分な人権研修がなかったように言っている。事実かはさておき、マスコミ各社がどんな人権研修をしているのかも確認したい。

――長谷川氏の発言はインターネットで表ざたになりましたが、ネット上には被差別部落の地名や出身者の特定情報、差別的な言辞があふれています。

 こうした情報で、特に、自らの出自を知らない部落出身の若者は深く傷つく。たとえば結婚差別。突然、ネットで差別情報を仕入れた婚約者から「部落出身のお前とは結婚したくない」などと言われる。自由に空を飛べていたつもりが「お前は鶏だ」と名指しされて、真っ逆さまにたたき落とされるようなものだろう。

 対策として、我々は、罰則規定のある差別禁止法の制定や、国が独立性のある人権委員会(人権機関)を設置して、そこが削除命令などを出す形を求めている。昨年12月、法務省は内部通達で、ネットでの「特定の地域が同和地区である、またはあったと指摘する情報」の公開を「原則として削除要請等の措置の対象とすべき」だとした。前進ではあるが、行政が都合の悪い情報を「差別だ」と削除させる可能性もある「もろ刃の剣」だ。

――被差別部落の地名など被差別者の情報を「なぜネットなどに流してはいけないのか」と思う人もいます。

 公開は当事者が判断すべきだ。ハンセン病家族訴訟原告団の林力代表は、元患者の息子だということを隠してきたが、部落解放運動との交流を通して「恥ではないものを恥だとするのが本当の恥だ」と確信し、表に出すようになった。当事者のこういう過程が大事なのだ。ただし、例えば新聞が肯定的に部落を描く際の地名などは当事者団体の了解があれば出すべきだ。

 脱線するが、私は初めてハンセン病療養所の入所者と握手をした後、手を洗いたくなった。子どもの頃に恐ろしい病気と刷り込まれた記憶がぬぐえていないと気付き、がくぜんとした。私たちは、真っ白な心のキャンバスに、真っ黒い差別の墨を塗られて育ちかねないものなのだ。墨をぬぐい取るのは容易ではない。

――他方、近年の部落解放同盟は、長谷川氏の件でも、「週刊朝日」が2012年10月に掲載した橋下徹・元大阪市長の出自についてのノンフィクション作家、佐野眞一さんの記事の件でも、あまり激しい糾弾や抗議をしない印象です。

 昔は3日間ぶっ続けの糾弾会もやったが、あれは糾弾する方もきつい。糾弾の目的は、相手の反省と意識変革を促し、再発を防止すること。目的達成の方法は、今は他にもいろいろある。なお、「週刊朝日」の件では、かつて作家の司馬遼太郎さんが作品に差別的な言葉を使ったときのことを思い出した。反省文を書いたうえで、「私は作家だから作品で挽回したい」と長編「胡蝶の夢」に反差別的な挿話を書いた。「さて、佐野さんはどうするのか」と見ているのだが……。

――00年代、同和対策事業が終了した時期に同事業などに絡む不祥事が次々発覚しました。以後、部落解放同盟の存在感が低下した印象があります。

 一部の利権問題が部落解放運動の全てのように思われてしまったのは本当に残念で、深く反省している。ただ、同和対策事業自体は、「行政外の行政」として放置されてきた被差別部落の生活環境、進学率や職業選択の幅を飛躍的に改善させた。それにもし、我々の運動が単に利権目当てだったならば、なぜ国内外の他の反差別運動と連帯するような「もうからない」ことをしてきたのか。我々の運動の原点は、「人間の尊厳」をうたった全国水平社宣言(1922年)である。

――運動の今後は?

 ネットでの差別などに対応しつつ、部落外に住む部落出身青年らともつながる、より広い取り組みを考えたい。部落の生活実態調査など、部落差別解消推進法の内容の実質化も求めていく。国際的な運動も重要だ。去年は、福岡で第4回「世界ダリット(被差別民)会議」を開いた。国境を超えた反差別運動を世界の被差別民と共に展開していきたい。

聞いて一言

 人の流出入が多い大都市圏や被差別部落が歴史的に少ない東北以北では、その存在すら知らない人も少なくない。他方、今はインターネットで、どんな差別も偏見も全世界に発信される。売名のためには「炎上」もよしとする一部の風潮が、その拡散に拍車をかける。組坂さんが指摘するとおり、自分が被差別者だと知らない人にも、このヘイトは容赦なく襲いかかる。従来の地域や歴史の文脈を超えた「新しい差別」として、誰もが考えるべき課題だと改めて思った。


 ■ことば

1 長谷川豊氏の発言

 今年2月に講演で、江戸時代の被差別民を差別的な呼称で取り上げ、「人間以下と設定された人たちも、性欲などがあります。当然、乱暴なども働きます」などと述べて、被差別民が集団で女性や子どもに暴行しようとした時、侍は刀で守ったと話した。5月15日、インターネット上に講演の動画が投稿された。部落解放同盟が史実を無視し、偏見に基づいているなどと抗議後、長谷川氏は謝罪。


 ■ことば

2 部落解放同盟

 1955年結成。同盟員数は約8万人(最盛期約18万人)。差別者糾弾だけでなく行政に生活環境改善などを求め、同和対策事業特別措置法(69年施行)は関連事業累計約15兆円。人権教育・啓発推進法(2000年施行)制定にも尽力。近年の運動の成果、部落差別解消推進法(16年施行)は予算措置のない理念法だ。


 ■人物略歴

組坂繁之(くみさか・しげゆき)氏

 1943年生まれ。部落解放同盟福岡県連書記長、同中央本部環境対策部長、同書記長などを経て現職。反差別国際運動日本委員会副理事長なども務める。共著「対談 部落問題」。

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