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ニッポンへの発言

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キーワード 又吉直樹『人間』の凄み=中森明夫

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小説『人間』連載開始時、インタビューに答える又吉直樹さん=毎日新聞東京本社で、宮間俊樹撮影
小説『人間』連載開始時、インタビューに答える又吉直樹さん=毎日新聞東京本社で、宮間俊樹撮影

 又吉直樹の新作小説『人間』(毎日新聞出版)を読んだ。10月10日刊のプルーフ(見本)が届き、いち早く読んで評したいと思った。本紙夕刊に連載された新聞小説というご縁もある。芥川賞受賞の大ベストセラー『火花』、続く『劇場』の中編2作、第3作の今作は著者初の長編小説である。

 主人公はイラストレーター兼コラムニストだ。38歳の誕生日に古い知人からメールが届き、20年前の回想へと至る。漫画家志望の青年・永山は、大阪から上京して「ハウス」と呼ばれる共同住居に暮らす。芸術家志望の若者たちが住むそこで日々、議論を交わし、確執がある。どこか懐かしい青春群像劇だ。文中に加川良の名も見えるが、加川の名曲「下宿屋」を想起した。

 又吉の小説は会話が生き、思弁的な内容が関西弁で和らげられ、ちょっと織田作之助(『夫婦善哉』)の趣もある。何げない細部がよい。<めぐみと仲野と三人でラーメンを食べにいった。めぐみが僕に「チャーシューちょうだい?」と言った。「あかんよ」と言って笑ったけれど、それは自分の人生において重要な瞬間だった>――しびれる、こういうところが。又吉の小説は「一つの場所」であって、読んでいる時、確実に自分はその場所…

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