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社説

中央銀行のポピュリズム 緩和期待に応えぬ勇気を

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 先週の欧州中央銀行(ECB)に続き、米国の連邦準備制度理事会(FRB)が金融を緩和した。7月末に次ぐ連続利下げである。

 日銀は、政策を据え置いたが、黒田東彦総裁が記者会見で、次回会合での追加緩和に含みを持たせた。

 確かに世界経済の先行きには、不安材料が増えている。米中の貿易戦争や中東情勢の緊迫化、英国が合意なく欧州連合から離脱する恐れなどだ。しかし政治的・外交的に解決を目指すべき課題がほとんどである。

 主要国の政策金利はかつてない低水準だ。日欧はマイナス金利策を続けている。これ以上の緩和が諸問題を解決してくれるとは考えにくい。

 それでも中央銀行が金融緩和に向かうのはなぜか。

 「熊にエサをやるな」――。FRBの政策決定に参加しているジョージ・カンザスシティー連銀総裁が、世界の中銀関係者に訴えた。同連銀主催のシンポジウムでのことだ。

金融の均衡乱す「エサ」

 会場は米ワイオミング州の国立公園内にある。開会のあいさつでジョージ氏は、人間が野生動物にエサをやり、動物がその味を覚えると、生態系の繊細なバランスを壊してしまう、と警鐘を鳴らした。

 最近の中央銀行が直面する難題を例えたものだ。利下げや量的緩和の「エサ」を与え過ぎると、金融をゆがめてしまう、との意味が込められている。前回、今回とも利下げに反対したジョージ氏らしい例え話だ。

 中央銀行にエサを求め、与えてもらっている「熊」とは、政治家と市場とみてよいだろう。彼らの期待に応えようと緩和に傾く金融版ポピュリズムが横行している。

 「ゼロ金利かマイナス金利にしろ」などとツイッターであからさまな要求を繰り返す米トランプ大統領の登場により、FRBへの政治圧力は次元が変わった。

 米国の金融政策は、金融・為替市場を通じて世界に波及する。米国が緩和に動くと他国通貨は値上がりしがちだ。通貨高は輸出競争力に響き、株安も招きかねないから、と各国で緩和の追随期待が強まる。

 欧州も日本も、中銀がそうした圧力にさらされている。日銀の異次元緩和は安倍政権との合作で、もともと政治色が濃いが、大規模な緩和を続けた結果、弊害が目立つようになった。エサは底をついたが、あるかのように追加をほのめかすのは、円高・株安を恐れてのことだろう。

 金融の「生態系」がバランスを失った例として、1970年代初めの米国が挙げられよう。

 72年の大統領選挙で再選がかかっていたニクソン氏は、バーンズFRB議長に対し、金融緩和による景気浮揚を迫った。バーンズ氏率いるFRBは積極的な緩和で応え、好景気のもとニクソン氏は圧勝する。

 だがその後、インフレが深刻化し、大量の失業など痛みを伴うインフレ退治には約10年も要した。

高まるバブルのリスク

 今日、金融緩和というエサを与え過ぎても、物価にはさほど跳ね返らない。代わって過熱が進むのが、証券や不動産といった資産の相場だ。いわゆるバブルである。

 すでに米国でバブルが膨張しているとする指摘は少なくない。株価は割高の状態が続いており、住宅、商業用不動産ともリーマン・ショック前の価格水準をすでに超えている。

 何かを引き金に危機が顕在化しかねない危うい状態に近づいている。

 しかも、リーマン・ショック後の大規模刺激策により、次の危機時に各国が取り得る策は限界がある。

 過去の失敗を通し、中央銀行の政策は政府から独立して行われるのが最善との認識が世界に広がった。問題は、制度として独立性を保証するだけでは不十分だということだ。

 政治家は中央銀行の領域を尊重し、中央銀行には国民の利益を最優先する強い使命感が求められる。

 「ECBは市場の期待に応えようとし過ぎた。時には市場を失望させる気構えも要る」。現地紙のインタビューでそう語ったのは、先月末、理事会メンバーとオーストリア中銀総裁を退任したノボトニー氏だ。

 一方、元日銀副総裁の山口広秀・日興リサーチセンター理事長は、「これ以上の緩和はむしろしない方が経済にプラスだという時、中央銀行は知恵をしぼってそれを世に伝える必要がある」と指摘する。

 中央銀行が緩和で政治家や市場の期待に応えようとする金融ポピュリズム。拒む勇気が問われている。

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