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犯罪被害にあった上、苦しい生活 なぜ経済的支援は届かないのか

事件や裁判の経緯を振り返る大竹有利子さん=兵庫県姫路市で2019年9月17日午後4時19分、村松洋撮影

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 犯罪の加害者が賠償金を支払わず、経済的にも苦しみ続ける被害者や遺族は後を絶たない。被害者の経済的支援に乗り出す自治体も増えたが、支援団体は「誰もが被害者になりえる。国が統一的に支援する仕組みが必要だ」と訴えている。

 「なぜ犯罪被害に遭った上、苦しい生活を強いられるのか」。2001年に殺人事件で夫を奪われた大竹有利子さん(66)=兵庫県姫路市=は嘆く。

経営者の夫失い、後を継いだが……

 夫の浅一(あさかず)さん(当時53歳)は、隣家に住む幼なじみの男とトラブルになり、路上で刺殺された。夫婦で緩衝材の町工場を営み、浅一さんは納期を守ろうと早朝から夜遅くまで働くまじめな人だった。

 大黒柱を失い、工場は傾いた。大竹さんが切り盛りしたが、売り上げは減り続けて4年後に廃業した。

 国が支払う犯罪被害者等給付金は、事件時に浅一さんが激しく抵抗したことなどを理由に減額され、支給されたのはわずか125万円。大竹さんは転居を余儀なくされ、ホテル清掃などのパートで生計を立てた。「明日はどうすればいいのか」。それだけを考えて生きてきた。

 男は殺人罪で懲役8年の刑が確定。民事訴訟で8000万円の賠償命令が確定したが、なかなか支払われず、男が所有する不動産の名義を親族に移していたことが分かった。

賠償命令出ても、全額は支払われず

 大竹さんは法務局に通い詰めて男の不動産を特定し、別に起こした裁判で資産隠しが認められた。そうまでしても手にしたのは一部だけで、弁護士費用などを差し引くと、手元に多くは残らなかった。

 10年間の時効で賠償請求権を失う前に再提訴しようとしたが、男は病死。それ以上の賠償を勝ち取ることはできなかった。

 今もパートを続け、生活は楽ではない。賠償命令が出ても満額が支払われない現状に「加害者の意思や能力で経済補償が左右されるのは納得がいかない。社会全体で被害者を救済する仕組みを作ってほしい」と話す。

「国が賠償金を立て替える制度が必要」

 被害者や遺族で作る「犯罪被害補償を求める会」(姫路市)の藤本護代表(89)は、自治体による支援の動きを歓迎しつつも、居住地によって内容が異なってしまう状況を懸念。「国が賠償金を立て替え、被害者の生活を再建できるようにする制度が必要だ」と訴える。【村松洋】

犯罪被害者への経済支援、225自治体が実施 泣き寝入りから救え

 犯罪の被害者や遺族に対し、独自に経済的支援を行う自治体が増えている。加害者に賠償金を支払わせるのが難しいケースが多いためだ。犯罪被害者白書によると、今年4月時点で、遺族や被害者への見舞金や貸付金の制度を設けているのは計255自治体に上る。これらとは別に、被害者の泣き寝入りを避けようと、訴訟支援や賠償金の一部立て替えなど、さらなる負担軽減を図る取り組みが各地に広がっている。

犯罪被害者への支援をしている主な自治体の取り組み

 裁判などで賠償命令を勝ち取っても実際には支払われず、被害者側が経済的に困窮する例は後を絶たない。加害者に資力がなかったり、支払わずに連絡を絶ったりするケースもある。

賠償金の全額回収ままならず

 日本弁護士連合会が昨年に行ったアンケートによると、賠償金の全額を回収できたのは、回答があった事件全体の57%。凶悪事件ほど回収が難しくなり、殺人事件で全額回収できたのは22件中1件だけだった。

 民法では、損害賠償の請求権は判決確定から10年で時効になる。裁判で賠償命令が出ても支払われない場合、再び提訴すれば10年を超えても請求できる。ただ、弁護士費用や提訴時の印紙代は被害者が負担しなければならない。

 大阪府は今年4月、殺人などの重大事件に遭った被害者や遺族を対象に、再提訴を支援する制度を開始。印紙代などを33万円まで助成している。福岡県も今月、同様の制度を始めた。

 市町村でも、横浜市が今年4月、見舞金制度に加え、引っ越しを余儀なくされた被害者らの転居費用の助成や介護、一時保育を支援する取り組みを始めた。兵庫県明石市は、加害者に代わって賠償金の一部(上限300万円)を立て替える制度を設けている。

国の給付金、遺族への平均支給額は614万円

 一方、国は遺族や重傷を負った被害者らに、年齢や年収に応じた犯罪被害者等給付金(犯給金)を支給している。ただ、遺族への支給額は平均614万円。重傷者へは同約27万円にとどまっている。

 35人が死亡、34人が重軽傷を負った京都アニメーションの放火殺人事件では、「就労中の災害」として負傷者や遺族に労災補償が支給される見通し。しかし労災補償を受けると犯給金は減額され、労災補償の方が高ければ支給されない。同社の代理人は、死傷者に労災補償や犯給金が支払われても、個人に関連する損害は40億円以上が不足するとの見解を示している。

 被害者への経済的支援が不十分な状況を受け、三重県は今年4月、都道府県では初の見舞金制度を創設した。遺族に60万円、重傷病者には20万円を給付する。

「被害者に不利にならない仕組みを」

 被害者支援に詳しい諸沢英道・元常磐大学長は「賠償を法律で義務付けるなど、被害者が不利にならない仕組みが必要だ」と指摘。「国は犯給金の支給範囲や金額を拡大し、自治体もきめ細かい支援策を用意することが大事だ」と話す。【村松洋、戸上文恵】

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