オピニオン

女性議員増加のためには法整備だけでなく、議員自身やメディア、有権者の意識改革が必要 政治経済学部政治学科 准教授
辻 由希

2019年10月1日掲出

 今や、社会のあらゆる分野に女性が進出している。だが、世界的に見ると、わが国は後進国と言わざるを得ないのが実情だ。昨年発表された世界男女平等ランキングで日本はG7のなかで最低の110位。とりわけ、女性の国会議員数は少なく、政治参画率は125位と極端に低い。このような現状を打破し、政治の世界により多くの女性を送り込むにはどうすべきか、「ジェンダーと政治」を専門とする辻由希准教授に聞いた。【聞き手・中根正義】

 

地方政治から中央へステップアップできる仕組み必要

──「ジェンダーと政治」という分野を専門に研究されていらっしゃいますが、そのきっかけや動機などを教えてください。

 大学は法学部で、国際政治や国際協力に興味があり、政治学系の授業を取っていました。ただ、授業自体はそれほど面白いとは思えず、自分でジェンダーに関する本などを読んでいました。高学年になり、現代政治をテーマとするゼミに所属しました。その時のゼミ生がすごく面白い人たちで、「国会議員につてがあるのでインタビューに行こう」となり、京都から車を走らせて東京へ行き、議員にインタビューするうち、政治もなかなか面白いと思い始めました。

 大学卒業後、一度は民間企業に就職しました。しかし、女性の先輩社員たちが結婚・出産を機に退職されることも多いことを目の当たりにし、あらためて日本社会におけるジェンダー平等に問題意識を持ちました。それと同時に、研究の道に進みたいという気持ちもあり、ジェンダーと政治を合体して研究するのはどうだろうと思い始めたのです。ちょうど、「男女共同参画社会基本法」が1999年に施行され、2000年代に入って男女が仕事と家庭生活を両立できるようにという話も出てきていたので、ジェンダー研究に取り組むには良い時代だと感じました。

 近年、社会学の分野でジェンダー研究に取り組む方が多くなりましたが、政治はどうしても日常生活から遠く思われがちなので、女性の研究者も政治学分野ではまだそれほど多くないというのが実情です。一方、海外では「ジェンダーと政治」研究はこの20年ほどの間に成長分野として注目度が高まっています。

 

──政界でも、ドイツのメルケル首相や台湾の蔡英文総統など、女性リーダーが増えています。

台湾の女性議員と・呉思瑤さん

 1970年代に女性運動が盛り上がって、各国で女性議員が増えたのですが、そこで増えなかった国が1990年代~2000年代以降に増えてきました。それがドイツや日本だと言えます。

 ただ、日本では、なかなか一気に女性議員数は増えませんでした。それは、政権政党である自民党の女性議員率が低いのが最大の理由だと言えるでしょう。連立政権を組む公明党は、地方議員には女性を立てるのですが、国会議員にはあまり擁立しないですよね。自民党も含めて、地方政治からのたたき上げという人がもう少し増えていけば、女性議員数はもっと伸びていくのではないでしょうか。

 昨年、男女の候補者を均等にする「政治分野における男女共同参画推進法」が成立しました。まだ努力義務ですが、各政党の女性議員がどれだけ増えたかということが横並びで数値が出るので、少しずつ増えていくと思います。

 

──他国を見ても、法律で縛るようなことがないと、なかなか女性議員数は伸びていかないものなのでしょうか。

台湾の議員会館内にあった授乳室の標識

 例えば、台湾では2大政党制で、民進党・国民党はともに、そこそこ安定しており、政権交代も行われています。2党のうち、民進党は積極的に女性候補者を増やして政権を取っているので、有権者が女性候補者を多く擁立しているかどうかという視点で投票先を選べば、ライバル政党である国民党も女性候補者を増やさなければ政権を取れないという、競争原理が働くことになります。

 日本は、共産党を除き、これまでどの政党も積極的に女性候補者を増やしていかなかったので、外圧などによって徐々に増えるという格好になっていますが、今年7月に行われた参議院選挙では女性候補が目立っており、東京でも自民党で女性候補が先に当選するというケースが見られました。有権者が女性候補者数を基準に選ぶようになってくれば、政党は自主的に女性候補をより多く擁立するようになってくるでしょう。

 

議員に何を求めるか、改めて社会全体で議論すべき

──日本においては、女性議員の比率はまだ低いのが現状です。アジア圏の中で高い比率を誇る台湾などの例を見て、日本が参考にすべき点などもあれば教えてください。

 一つは、供託金などのお金の問題。それをどうサポートできるか。政党によっては、女性候補が初めて立候補しようというときに、何らかのサポートをしている例も見られますが、政党の努力に任せているだけでは、政党によって差が出てきてしまうので、法律をきちんと整備する必要があると考えます。

 また、育児もしながら議員をしている女性が公用車を使うことに批判がありましたが、メディアも世論も、もう一度、議員=政治代表に求めるものが何なのかということを根本から議論する必要があると思います。今までは、政治家を地域で選び、その人が地元のために働くということが重視されてきました。しかし、議員に対する評価を今こそ変えていく必要があると思います。女性議員だけでなく、性的マイノリティーの人や障害を抱える人が議員になって、今までとは異なる視点で立法の提案をしたり、質問をしたりすれば、有権者の議員に対する見方も変わっていくのではないでしょうか。

 フランスでは憲法改正により、男女の議員を50:50にするという「パリテ原則」を盛り込みました。それを実現するために、県議会選挙では、男女でペアを組んで立候補している候補者の中から一組を選んで投票するという「男女ペア方式」という選挙方式が導入されています。絶対に男女の比率を50:50にするという意識を法律化しているわけです。人口比が男女半々なので議会もそうするのが当たり前だろうと。日本ですぐに導入するのは無理だと思いますが、いずれにしても議員に何を求めるのか、もう一度考え直すことは重要だと思います。

 そして、選考過程、すなわち政党がある選挙区の候補者をどう選ぶのかという過程は現在ブラックボックス化していますが、これを透明化すべし、という法律ができれば変化していく可能性はあるでしょう。アメリカでは予備選挙があり、党員が候補者を選ぶので非常に透明化されており、政党がコントロールする余地はほとんどありません。そこまでいけば、有権者の考えが候補者の構成に反映されるのではないでしょうか。

 先ほど述べたように、まず地方議員になって政治家としてのキャリアを積んでから中央に進出するというキャリアラダーのシステムの導入も考えていく必要があるでしょうね。

 

──今後、取り組んでみたいテーマや分野は、どんなことでしょうか。

 今、「自民党のなかの女性」というテーマで、女性議員だけでなく、女性局や女性の活動家といった人たちが一体どういう人たちで、何をしてきたか、その役割は変わりつつあるのかといったことを研究しています。選挙などで動員するときに、システムとして女性局というものがあり、候補者後援会の女性部なども含めて日常的な活動はそこに任せてきたわけですが、そこが政治代表に結び付いていない、そこから女性議員になるというルートはありませんでした。なぜ分断されていたのか、変わりつつあるのではないかという期待も込めて研究しています。日常的な活動をしている女性たちから議員が生まれるようになれば、自民党も変わるのではないでしょうか。日本の場合、ほとんど自民党の一党支配による政権が続いているので、自民党が変われば、政治家全体の意識も変わり、もっと女性議員が増えていくのではないかと思っています。

 

──政治やジェンダー論について学びたいと考えている方へ、東海大学で学ぶことの意味、政治経済学部の面白さ、メッセージなどをお願いします。

他大学との合同ゼミ合宿@京都

 政治に興味を持ってくれれば一番うれしいですが、たとえ政治に興味がなくても、東海大には多くの学部が設けられていて、学際的に学びたいという学生の期待に応えるスケールがあります。ジェンダー論を専門にしている先生もいろいろな学部にいらっしゃるので、縦軸を政治にして、横軸にもう一つ自分の研究したいキーワードを置くことで立体的に学ぶことができる環境が整っているといえます。実際に現場に出て体験するフィールドワークのプログラムも充実しているので、ぜひ東海大学の門を叩いてほしいですね。

 18歳選挙権となり、高校でもシチズンシップ教育が採り入れられるようになりました。私たちもそうした場に積極的に出向いて、政治学の面白さ、政治は私たちの生活に身近なものであることをアピールできればと思っています。

政治経済学部政治学科 准教授 辻 由希 (つじ ゆき)

2000年京都大学法学部卒業、2011年3月京都大学大学院法学研究科(政治学専攻)博士後期課程修了、博士(法学)。2006年9月から2年間、カナダ・トロントにあるヨーク大学大学院(政治学)に留学。2015年に東海大学に着任。著書に『家族主義福祉レジームの再編とジェンダー政治』(単著、ミネルヴァ書房、2012年)、共著(分担執筆)に「男女共同参画とローカルなジェンダー政治」(畑山敏夫・平井一臣編著『ポスト・フクシマの政治学』、法律文化社、2014年)、「関東大震災後の「女性の空間」-婦人会館建設運動を通して見る日本国家と市民社会」(落合恵美子・橘木俊詔編著『変革の鍵としてのジェンダー』、ミネルヴァ書房、2015年)、「女性たちの支援活動と復興への回復力」(五百旗頭真監修・御厨貴編著『大震災復興過程の政策比較分析』、ミネルヴァ書房、2016年)、論文に「台湾における女性議員の持続的増加の要因-2016年台北市でのヒアリング調査から-」『東海大学紀要・政治経済学部』48巻(2016年)などがある。