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世論は風だ。でも世論とは何だ――。永田町を知り尽くす山田孝男特別編集委員の政治コラム。

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関電高浜問題の意味=山田孝男

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 事なかれ主義の関西電力エリートを手玉に取ったモンスター的人物(福井県高浜町元助役、今春死去)の逸話は興味深い。

 関電高浜原発をめぐる騒動の歴史的な意味は、全国の原発の再稼働がこれでますます難しくなり、原発が運転できなくなるところにある――と思う。

     ◇

 原発誘致の中心、元助役の錬金術を暴くルポはかねて出版されていた。

 「原発のある風景」(柴野徹夫、未来社、1983年)▽「誰も書けなかった若狭湾『原発銀座』の巨大利権」(一ノ宮美成、「別冊宝島」2011年11月刊所載)――である。

 元助役は、助役に昇任する前、町職員に採用された69年から72年まで、部落解放同盟高浜支部の書記長だった(高浜町同和教育25周年記念誌)。前掲ルポによれば、この人物が、当時の解放同盟の差別糾弾闘争を主導し、その威勢をもって町政を支配した。

 ルポは、関電への原発マネー還流までは触れていないが、元助役が、部落解放運動を利用して自分に刃向かう勢力を退け、関電から裏金を受け取った――という当時の町議らの証言を書き留めている。

 元助役にとって、関電幹部との駆け引きなど赤子(あかご)の手をひねるごときものであったに違いない。とはいえ関電も元助役を利用して原発立地を推進した。関電は被害者ではない。

 原発マネーの還流は下請け企業の税務調査で発覚した。関電は昨年9月、内部調査を終えたものの、取締役会には報告せず、会長と社長、副社長が役員報酬を毎月2割返上、長くて2カ月――という処分をコッソリ済ませていた。

 会長、社長の月給は非公表だが、関電の有価証券報告書によれば、昨年度、取締役13人の報酬総額は5億4200万円。これを単純平均すれば1人毎月347万円。2割返上しても月278万円である。

 先月26日、共同通信の特報で問題が露見した。

 驚くのは、この期(ご)に及んで関電幹部が誰ひとり辞めないこと。のみならず、八木誠会長が関西経済連合会の副会長に、岩根茂樹社長が電気事業連合会会長に居座ったことである。

 厚顔に恐れ入るが、かれらは3・11から学んだに違いない。電力会社は何が起きても責任を取る必要がないし、記者会見で進退を聞かれた場合も、決してたじろがず、粘ってしのげばよいということを。

     ◇

 最新の政府「エネルギー基本計画」(昨年7月)によれば、2030年の電力供給における原発依存度は20~22%である。

 他方、計画の根拠になっている「長期エネルギー需給見通し」(15年7月)によれば、30年の電力使用量は今と大差ない。

 専門家によると、メンテナンスを考慮して設備利用率80%と仮定すれば、30年に3000万~3350万キロワット分の原発が動いていなければならない。

 それに対し、新規制基準に適合――と認められた15基の原発の出力が合計1542万キロワット。いま審査中の10基を加えても2499万キロワットでしかない。

 ただでさえ計画実現がおぼつかないのに加え、原発マネー還流で電力会社の信用が地に落ちた。

 原発の再稼働には新規制基準適合のお墨付きと地元の同意が必要だが、誰が電力会社を信じるか。この時代、もう日本で原発は無理だ。高浜の問題は、その流れを決定づけた。(特別編集委員)=毎週月曜日に掲載

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