田中正造(1841~1913年)に関心を抱き、研究を続けるうちに、イタイイタイ病で知られる富山県の神通川を訪れたくなった。イタイイタイ病の実態を知ることが正造の本質に近づく大きな一歩に違いないと予感したからである。「神が通る川」といわれた神通川沿岸にはかつて奇妙な病気が発生していた。骨がぼろぼろ折れ、体は小さくなり、病人はイタイイタイと泣き叫ぶ。かかるのは30過ぎの出産経験のある女性がほとんどなのだ。この病気が出るとその家には嫁の来手がないと言われた。やせて小さくなった人たちは世間の目から隠れるように奥の部屋や納屋に住んだ。まるでかつてのハンセン病ではないか。
神通川上流に神岡鉱山があり、鉱山の経営は三井金属鉱業である。ここからカドミウムという物質が流出していた。しかし、この物質が奇病の原因であることを突き止めるまでに長い年月を要した。この奇病は大正から昭和20年代にかけて多発した。背景は戦争の時代であった。三井金属鉱業の存在は戦争遂行に必要であったから国も県も患者たちの味方をしなかった。神が通る川は恐ろしい川に変身した。神は悪魔になり命あふれる川は死…
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