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寄稿

オルガ・トカルチュク氏にノーベル文学賞 ヒエラルキーを壊す菌糸=小椋彩(東洋大助教 ロシア・ポーランド文学者)

2018年のノーベル文学賞に決まったオルガ・トカルチュク氏=ロイター

 1989年の東欧革命後、民主化ポーランドに台頭した「新世代」と呼ばれた作家の中でもその人気は群を抜き、読者からも批評家からも高い評価を得る。フロイトやユングを愛読する学生時代から、セラピストを経て作家になった。キャリアを決定的にしたのは長編3作目「プラヴィエクとそのほかの時代」(96年)で、ポーランドの架空の村を舞台に、84の挿話からこの国の激動の20世紀を神話的に描き出し、国外にも広く知られるようになる。実験的でありながら難解ではなく、文体はむしろシンプルで読みやすい。しかしじつは、単純に見える物語の背後にまるで星空のように圧倒的な知性がひろがり、読者は星座を見つけるように、その空に自分だけの意味を見出(みいだ)す。116の断章を集めた異色の長編小説「逃亡派」(2007年)を、作家本人は「コンステレーション・ノベル(星座小説)」と呼ぶ。別々の時空間で起こる点としての出来事が、ある瞬間につながって、星座のように物語を成すからだ。この小説は国内で最も権威ある文学賞のニケ賞を受賞、18年に出版された英訳は、ポーランドの小説で初めてマン・ブッカー国際賞も受賞して話題になった。

 こうした断片を連ねる表現形式は、作家によれば、ポーランドが属する中欧の地域的・歴史的特性に由来する。この地の歴史は複雑だ。大国からの侵略によりたびたび領土変更を強いられ、土地は帰属を変えてきた。「中欧文学」という括(くく)りがあるとすれば、そうした歴史的不連続に由来する断片性こそが、それを語るキーワードになる。

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