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台風19号による豪雨被害では、高齢者が逃げ遅れて亡くなったケースが目立った。
犠牲者が多かった福島県では、避難指示などの対象人数のうち、台風の通過直後に実際に避難所へ身を寄せていた人の割合は1・6%だった。自宅の2階以上へ逃げた人がいることを考慮しても低い割合だ。
「避難率」の低さは過去の災害でも指摘されてきた。住民が避難をためらう理由の一つに挙がるのは、自治体の避難所の質の問題だ。
あるべき避難所の姿について、国際赤十字などは「衛生」「生活環境」などの指針「スフィア基準」を定めている。1人当たりの居住空間を最低3・5平方メートル確保することなどを求めているが、日本の避難所は多くの点で満たしていない。
復興庁の検討会が2012年に東日本大震災の関連死について調査したところ、「避難所等における生活の肉体・精神的疲労」が原因の約3割を占めた。冷たい床に毛布1枚を敷いた狭いスペースで過ごすといった環境のせいだった。
問題はその後も十分には改善されていない。16年の熊本地震でも、高齢者らの同様の関連死が相次いだ。
学校が避難所の自治体が多く、体育館での不自由な生活を強いられるケースが多い。公立小中学校の体育館の空調設備設置率は平均3%にすぎず、体調維持は容易でない。
トイレの課題もある。足腰の弱い高齢者や障害者には不便な和式しか備えていない避難所が散見される。
政府は台風19号の接近前に、授乳室や男女別のトイレを設けるなど、女性の視点に立った避難所運営を全国の自治体に求めた。今後も質に配慮した避難所運営を政府から自治体へ働きかけることは重要だ。
住民がアクセスしやすい避難所の立地も求められる。
今回、栃木県で避難所に向かおうとした車が水没し、乗っていた女性が犠牲になる痛ましいケースがあった。危険な場所を通らざるをえない避難所がないか、各自治体で点検が必要だ。
内閣府のきのうの朝時点のまとめでは、避難所に身を寄せている住民は4000人を超える。物資だけでなく、人間の尊厳を守れる生活環境を提供しなければならない。