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東京駅で出会ったナミビア人についていったら 台風、被災地、そして「歴史的試合」は

釜石に向かって東京駅を出発する一行。前列右からリチャードさん、ルネルさん、記者。後列右からローレンスさん、アルビーさん=東京駅で2019年10月11日、リチャードさん撮影

 ラグビーのワールドカップ(W杯)を観戦するため日本を訪れた外国人は約40万人ともいわれる。9月20日に開幕し、決勝は11月2日までと期間も長い。一体、来日する外国人は日本で何を感じ、試合観戦の合間をどう過ごしているのか。あるナミビア人親子に密着した。【國枝すみれ/統合デジタル取材センター】

 「南アフリカから来たの?」。東京駅で南アフリカと書かれたTシャツを着た親子連れに声をかけた。「いや、その隣のナミビアだ」。リチャード・ボサさん(21)と、父親でメディア総合会社「ナミビア・メディア・ホールディングス」を経営するアルビーさん(48)が笑顔で応じた。ナミビア代表アンドレ・ラデマイアー選手(21)の両親も合流し、東日本大震災の被災地、釜石鵜住居(うのすまい)復興スタジアムに行くというので、同行することにした。

 ナミビアは1990年に南アフリカから独立した人口250万人の国だ。ラグビー熱は高いが、W杯では一度も勝利したことがない。今大会も3連敗しているが、13日に対戦する予定だったカナダには勝算があるとみて、W杯初勝利への期待が高まっていた。

 リチャードさんは大学でデジタルマーケティングを専攻し、卒業したばかり。9月19日に日本に到着し、大阪(対イタリア)、愛知(対南アフリカ)、東京(対ニュージーランド)でナミビアの試合を観戦し、広島と長崎の被爆地も訪れたという。

 10月5日に合流した父親アルビーさんにとっても初めての日本だ。ちまたでは「日本はすごい」という論調の本やテレビ番組が多いが、アルビーさんの日本の印象は全く違っていた。「日本は80年代から時間が止まっているようだ。進んでいく世界から取り残されているように見えるよ」。ナミビアではクレジットカードやデビットカードなどキャッシュレス化が進むが、日本は現金利用が多いのに驚いたという。「高齢者が多いからかな? 技術が進んでも新しいものを使いこなそうとしないメンタリティーが高まっているとしたら、日本の未来は暗いね」

 11日午前9時。息子の晴れ姿を見ようと、エチオピアや韓国を経由し30時間以上かけて日本にやってきた農場主のルネル・ラデマイアーさん(52)と夫のローレンスさん(52)が東京駅に現れた。「背中がくっつきあうほど電車が混雑していた」。驚きのあまり、疲れを忘れているという表情だ。

 東北新幹線で盛岡に行き、さらにバスで、ナミビア選手団の滞在先である三陸海岸・宮古へ向かう。宮古駅のロータリーにバスが着くと、「通訳」と胸に書かれたシャツを着たナミビア出身の女性が叫びながら駆け寄ってきた。20年前に日本人と結婚し子どもが3人いるというアニータ・佐々木さん(49)だ。ナミビアからの一行を一人ずつ抱きしめて歓迎した。

 選手団が滞在するホテルを訪れ、ルネルさんは早速、ロビーで息子のアンドレ選手と対面。しっかりと抱きしめ、持参したビーフジャーキーを手に握らせた。ナミビアではビーフジャーキーを食べながらラグビー観戦する習慣があり、切り離せないものなのだという。

 アンドレさんのポジションは、スクラム最前列のプロップで、背番号は1。強豪ニュージーランドと対戦した時、これまでにないプレッシャーを感じたが、試合開始の笛が鳴ったとたん、重圧が消えたという。「ラグビーはラグビーだ」。大試合でもやることは同じ。21歳とは思えない落ち着きぶり。さすが代表選手だ。

 W杯選手に質問できるせっかくの機会。私は、これまで見たこともないほど丸くて大きな太ももに気を取られ、思わず聞いた。「太ももの周囲は何センチですか?」。「測ったことがないから分からないです」とアンドレさん。そりゃ当然だ。「私はこれまで何年間記者をやってきたのだろうか」。うなだれる。

 ルネルさんが説明する。「兄の方がスポーツ万能だった。でも弟のアンドレには情熱があった」。アンドレさんは高校時代からラグビーに集中し、19歳でラグビーの技術を学ぶアカデミーに入学。南アフリカのクラブに所属してプレーしながら、農業大学で学ぶ。W杯に備えるため1年前から大学を休学しているという。

 ナミビアのラグビー競技人口は約2万人で、英国の211万人や南アの69万人と比べると圧倒的に少ない。ナミビアの代表選手の多くは、南アフリカや欧州のクラブに所属し、W杯の時だけ母国に戻るのだという。

被災地の「風の電話」に行きたい

 12日、ジャーナリストでもあるルネルさんが「どうしても訪ねてみたい場所がある」という。釜石近郊の岩手県大槌(おおつち)町にある、どこにもつながらない「風の電話」だ。2011年3月の東日本大震災以降、もう会うことができない相手と話をするため、多くの人が訪れている。「ナミビアはキリスト教国。誕生日にお墓に花を供えることはするけど、こんな試みは聞いたことがない。日本人の悲し…

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國枝すみれ

1991年入社。英字新聞毎日デイリーニューズ編集部、西部本社福岡総局で警察担当記者、ロサンゼルス支局、メキシコ支局、ニューヨーク特派員を経て、2019年10月から統合デジタル取材センター。05年、長崎への原爆投下後に現地入りした米国人記者が書いたルポを60年ぶりに発見して報道し、ボーン・上田記念国際記者賞を受賞。

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