長野・千曲川 堤防決壊、歌で伝承 多くの住民避難 台風19号

  • ブックマーク
  • メール
  • 印刷
千曲川の決壊現場近くの堤防に建てられた「桜づつみ」の歌詞が書かれた看板。すぐ近くでは堤防の復旧工事が進められている=長野市穂保で2019年10月17日午前11時24分、手塚耕一郎撮影 拡大
千曲川の決壊現場近くの堤防に建てられた「桜づつみ」の歌詞が書かれた看板。すぐ近くでは堤防の復旧工事が進められている=長野市穂保で2019年10月17日午前11時24分、手塚耕一郎撮影

 台風19号で千曲川の堤防が決壊した長野市穂保(ほやす)を含む長沼地区一帯は江戸時代から繰り返し水害に襲われ、住民は過去の被害を代々語り継いできた。広範囲の浸水被害で地区内の家々が土砂にのまれたが、多くの住民は避難するなどして命を守った。【川上珠実、大澤孝二】

 「みんなの無事を確認したよ」

 「先生と勉強したことが全部本当だったんだって実感した」

 堤防が決壊した13日以降、長野市の市立小学校教諭の竹内優美さんのスマートフォンにはかつての教え子たちから無料通信アプリ「LINE(ライン)」でメッセージが次々と届いた。「みんな無事でよかった」。ほっと胸をなで下ろした。

 竹内さんは3年半前まで長沼地区の長沼小学校で勤務していた。この地区は昔から水害に見舞われてきた。千曲川で史上最悪とされる「戌(いぬ)の満水」(1742年)では、長沼地区で168人が亡くなり、約300戸の家屋が流失した。善光寺地震(1847年)では、田んぼが水没して米がとれなくなった。

 2014年度は6年生(21人)の担任だった。子どもたちに水害の歴史を知ってもらおうと劇をすることにした。台本を作るため、子どもたちは地区のお年寄りらに水害と闘ってきた長沼の歴史を聞いた。竹内さんは歌を作詞作曲した。タイトルは「桜づつみ」。その頃、千曲川左岸の堤防を補強し、そこに桜を植える工事が進んでいた。

 劇は現代を生きる彼らが過去の災害時にタイムスリップする物語。地域の住民を招いて上演した。劇の最後に「桜づつみ」を全員で歌った。

 <おじいさんに聞いたんだ 遠い日の話 何もかもが流された 悲しい時代のことを 自然の猛威に人は なす術(すべ)もなく でも立ち上がり 一歩ずつ歩んできた>

 長沼地区では代々こうした防災教育が受け継がれてきた。佐藤和良さん(70)は、小学生の時に社会科の見学で千曲川の土手沿いの古民家の壁に残る水害の痕跡を見学した。先生から「水害を受けた記憶を覚えておくように」と教えられたという。12日午後6時に避難勧告が出てすぐに妻と近くの小学校に避難した。

 今回の決壊による浸水域は約950ヘクタールに及び、堤防の桜も一部がなぎ倒された。住宅の浸水被害は長沼地区を含む3地区で1874世帯(17日時点)。死者は2人だった。教え子の多くは避難生活を続ける。

 当時の劇の台本の最後は「私たちの大切なふるさと、長沼が、これからもずーっと平和でありますように」との願いを込めて終わる。水害が繰り返されてしまったが、竹内さんは教え子からのこんなメッセージに一筋の光をみる。<まだ信じられないです。でも、この経験を生かして、私たちがちゃんと長沼を守っていきます>

 「長沼は何度も立ち上がって乗り越えてきた。今回もきっと乗り越えていく」。竹内さんはそう願っている。

あわせて読みたい

注目の特集