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世界的ヒットの中国SF小説「三体」 著者の劉さん「これは序文に過ぎない」

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「三体」の著者、劉慈欣さん=東京都千代田区で2019年10月11日、須藤唯哉撮影
「三体」の著者、劉慈欣さん=東京都千代田区で2019年10月11日、須藤唯哉撮影

 中国で大ヒットし、今年7月に日本で刊行されたSF小説「三体」(早川書房)が、海外のSF小説としては異例のベストセラーとなっている。電子版も含めた発行部数が既に13万部を記録。中国では全3部作のシリーズ累計発行部数が2100万部に達し、「三体」はその第1部。「これは序文に過ぎない」。来日した著者の劉慈欣(りゅう・じきん)さん(56)に話を聞いた。

中国の発展あっての大ヒット

 「三体」は中国のSF専門誌で連載後、2008年に単行本化。14年に英訳版が出版されると米国でもヒットし、「世界最大のSF賞」と呼ばれるヒューゴー賞をアジア人として初めて受賞した。オバマ前米大統領が愛読したことでも注目を集めた。

 そんな国境を越えた盛り上がりにも、本人は「刊行当初はごく普通の小説としか思っていなかったので、こんなに評価されるとは想像もしなかった」と冷静だ。

 物語は、文化大革命(文革)の激しい波が押し寄せていた1967年に始まる。紅衛兵たちに父親を惨殺された中国人のエリート女性科学者、葉文潔(イエ・ウェンジエ)は人類に絶望する。その後、天体物理学が専門の彼女は軍事基地で極秘に進められているプロジェクトにスカウトされる。その基地には巨大なパラボラアンテナがあり、異星文明との交感が試みられていた――。

 中国では社会現象にもなったという「三体」。そこには、中国社会が急速な発展を遂げたという時代の後押しがあったと、劉さんは考えている。「未来の姿を読者の前に広げて、示すことができるのがSF小説。発展した現在の中国は未来に触れられる国になった。これは中国の歴史上、今までなかったことであり、中国人の未来に対する好奇心や期待に、この作品が応えているのかもしれない」と分析。そのため「もし20年前に刊行していたら、どんなに上手に書いていても、絶対にこんなに売れることはなかっただろう。だから時代に感謝したい」と語った。

文化大革命「一生忘れられない、忘れてはいけないこと」

 当局の統制や監視が厳しい中国では、作家が自国の負の歴史について語るのは困難だ。それだけに、冒頭に登場する文革の描写は読者に強烈な印象を残す。

 劉さんは63年に生まれ、中国の小村で育った。自身の幼少期と重なる文革について「いまだに制限されていて、とても敏感な話題」と認めながら、「とても重い歴史で私たち経験者にとっては一生忘れられない、…

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