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入場すらままならず 記者が「表現の不自由展・その後」を見て感じた不自由 

記者が抽選で当たった番号「00879」が書かれた整理券のリストバンド=名古屋市の愛知芸術文化センターで2019年10月9日午後3時31分、江畑佳明撮影

 脅迫や抗議によって中止に追い込まれた国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」が8日、再開された(14日に閉幕)。元従軍慰安婦を題材にした「平和の少女像」や、昭和天皇の肖像が燃える場面がある映像など、激しい論争を呼んだ展示作品は一体どんなものなのか。再開の現場では何が起きているのか。じかに確かめたくて、東京から名古屋市の会場に足を運んだ。【江畑佳明/統合デジタル取材センター】

記者、抽選の行列に並ぶ

 まるで大学入試の合格発表みたいだ。若い頃の苦い記憶がよみがえる。

 9日午後3時10分、会場の愛知芸術文化センター10階。モニターに映し出された当選番号を、自分の黄色いリストバンドに印字された数字と何度も見比べた。何百人もの鑑賞希望者が、同じようにモニターを見つめている。「00879」。自分の番号を見つけ、思わず「やった!」とガッツポーズをしそうになった。

 記者が抽選の列に並んだのは8日以降、これが5回目だった。再開後の「不自由展」は、安全確保のため1回30~35人に入場を制限し、ガイド付き観賞ツアーとなった。8日の2回の抽選には計1358人が殺到し、倍率は約22・6倍に上った。

 翌9日、記者はこの日最後の3回目の抽選で、最終回のツアーに滑り込んだ。前日より門戸は広がったが、それでも約10倍の高倍率。「このまま外れ続けたらどうしよう」と不安だっただけに、ほっとした。

漂う緊張感

 会場に着いたのは8日午前。厚い雲に覆われた空の下、「表現の自由を守れ!」という大声が聞こえる。会場前で「暴力で表現の自由を封殺するな」という横断幕を手に、再開を支持する市民ら10人ほどが声を上げていた。

 勇んでここまでやってきたが、心持ちは曇天のようだった。作品を見たい気持ちは強いのだが、表現の自由や歴史修正主義など、重たいテーマが頭から離れないからだ。

 10階の国際芸術祭入り口に行ってみた。多くの来場者でにぎわっている。

 耳にイヤホンをはめて黒いカバンを持った私服警官の姿が目についた。鋭い視線で周囲に目配りをしている。一見平穏なようだが、緊張感が漂っている。

 シートに腰掛けていた男性(42)に話しかけた。愛知県内から来たといい、「河村たかし(名古屋)市長の意見に賛成。昭和天皇の御真影を焼くのは失礼極まりない。表現の自由は無限ではない」と少々お怒りの様子だ。ただ「内容を見ないと判断できないところもあるので、ぜひ観賞したい」とも。

 男性が「焼く」と言っているのは、美術家の大浦信行さんが出展した映像作品「遠近を抱えて PartⅡ」のことだ。昭和天皇のコラージュを含む版画「遠近を抱えて」が燃やされる場面がある。大浦さんはこれまで、毎日新聞などの取材に「天皇制を批判する意図は全くない。僕自身や日本人の中にある『内なる天皇』を昇華させていくことを表現した」と説明している。なんとしても自分の目で見たい気持ちが高まる。

 外では30人ほどのグループが再開に抗議する集会を開いていた。河村市長も座り込みに加わり、「陛下への侮辱を許すのか!」と書かれたプラカードを手に何度も拳を突き上げていた。集会は市長の支援者や市議らが主催したというが、そもそも公的な立場にある人物が、自身の歴史観を理由に参加する姿に違和感を覚えた。

「天皇陛下イコール日本」だから

 翌9日。記者は「表現の自由は最大限尊重されるべきだ」と習った。ならば、再開反対の意見にもう少し耳を傾けよう。

 会場近くで、水色のシャツを着てマイクを握り、一人で再開反対を訴えている男性がいた。大阪府の会社員、小林宏助さん(29)。抽選に並んだが、外れたという。今回の件で何が一番問題だと思うか尋ねた。

 「作品を見ていないので何ともいえないところがありますが、昭和天皇の御真影が燃やされているところですね。表現の自由が大事なのはわかりますが、誰かの写真を燃やして踏みつけるなんて、普通はできないでしょう。大村(秀章・愛知県)知事の考えはひどいと思いますが、僕は彼の写真を燃やしたりしませんよ。それが普通じゃないですか」と主張した。

 「昭和天皇への気持ちが強いのですか」と質問すると、こう答えた。

 「そうですね。天皇陛下イコール日本と考えているので、昭和天皇が燃やされれば日本人が嫌がらせを受けたのと同じだと思います。展覧会を開きたいなら自腹でやればいいし、補助金を受けたいのであれば、文句の出ない範囲でやるべきだと思います」

いよいよ展示室へ

 鑑賞ツアーの時間が近づき、8階の集合場所へ向かう。受付では、スタッフが当選番号を確認したうえ、身分証と入場券の提示、同意書へのサインを求めた。

 同意書の中身は、撮影した写真や動画を会期中はSNSに投稿しない▽大浦さんの映像作品は写真も動画も撮影しない▽展示室内の来場者やスタッフを撮影…

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江畑佳明

大阪府寝屋川市生まれ。1999年入社。山形支局を振り出しに、千葉支局、大阪社会部、東京社会部、夕刊編集部、秋田支局次長を経て、2018年秋から統合デジタル取材センター。興味があるのは政治、憲法、平和、ジェンダー、芸能など。週末は長男の少年野球チームの練習を手伝う。

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