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「お母さん、大丈夫?」呼び掛けに返事なく 次女、階下の100歳救えず 福島・いわき

大内寿美子さんの遺体が見つかった寝室(写真奥)。水害後手つかずのままで、家財道具が散乱している=福島県いわき市で2019年10月17日午後0時4分、土江洋範撮影

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 とっさに口をついたのは、昔呼んでいた「お母さん」だった。台風19号で8人が亡くなった福島県いわき市。近くを流れる夏井川の堤防が決壊し、自宅1階の寝室から母の大内寿美子さん(100)を助けようとした次女の鈴木良子さん(68)は、そう叫んで迫り来る泥水の中に飛び込んだ。孫もいるから「ばあちゃん」と呼んでいた。「でもあの時、思わず出た言葉が『お母さん』だったんです」と、涙ながらに振り返る。

 あの夜。鈴木さんが13日午前1時ごろに家の外を見ると、風雨は収まっていた。もう大丈夫だと思い、2階の部屋で眠りについた。18年前から2人で暮らしている母は、1階で寝ているはずだった。

大内寿美子さん=遺族提供

 異変に気付いたのは1時間後。「ボコッボコッ」という音で目を覚ますと、もう階段の真ん中あたりまで浸水していた。「お母さん! 大丈夫?」。何度も叫んだが、返事はなかった。夢中で水に飛び込み、1階に潜ろうとしたが、その間にも水位は上がっていく。とうとう諦めて引き返した。2階のベランダから見える光景は、辺り一面がまるで湖のようだった。

 その晩は一睡もできなかった。ずっと一緒だった母を助けられなかったこと。ぐちゃぐちゃになった自宅……。どう受け止めてよいか分からないまま、半日後にボートで救助されるまで布団にくるまっていた。

 母は戦前、旧満州(現中国東北部)でタイピストの仕事をしていて「漢字博士」だった。13年前に死去した鈴木さんの父は著名な歌人。短歌投稿欄の選者として批評を書く際には、誤字脱字がないかを母がチェックしていた。生け花もたしなむ一方で、専業主婦として2人の娘を育ててきた母が誇らしかった。

 母は今月21日には101歳の誕生日を迎えていたはずだった。週3日利用しているデイサービスで、亡くなる2日前には誕生日祝いを催してもらったばかり。足が不自由で、昨年からはうようにして歩くようになった。それでも食事やトイレは自力でこなし、病気もない。計6人の孫とひ孫に会うのをいつも楽しみにしていた。

 救助隊に運ばれてきた母の遺体は、体に傷もなく穏やかな表情だった。そういえば、ここ1、2年ほどは「苦痛は嫌。眠りながら逝きたい」と口にしていた。

 「静かに息を引き取れたのは、よかったのかな」。鈴木さんは、そう自分に言い聞かせている。【土江洋範】

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