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「私の人生最高の瞬間を捉えている」 民族と宗教を超えた男女の初恋を描いたマレーシア映画「細い目」主演、シャリファ・アマニさんインタビュー

「細い目」で、オーキッドを演じるシャリファ・アマニさん(左)と、ジェイソンを演じるン・チューセンさん

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 2009年に51歳の若さで急逝したヤスミン・アフマドさんは、日本で最も多くの映画ファンに愛されているマレーシアの映画監督であろう。マレーシア・アカデミー賞でグランプリを含む6部門を独占し、第18回東京国際映画祭(TIFF)でも最優秀アジア映画賞を受賞したヤスミン監督の「細い目」(04年)が、マレーシアでの公開から15年の時を経て日本で公開されている。金城武が大好きなマレー系の少女・オーキッドと、屋台で海賊版の香港映画のビデオCDを売る中華系の少年・ジェイソンが恋に落ちるラブストーリーだ。「より多くの日本の皆さんに見てもらえるのは、とてもうれしい」。同作でデビューしたマレーシアの人気女優、シャリファ・アマニさん(33)は、映画で演じる“オーキッド”と同じチャーミングな笑顔で語った。【西田佐保子】

「ヤスミンは、私にとって世界そのもの」

 「不思議ね。文化も言葉も違うのに、心の中が伝わってくる」

 「細い目」の冒頭に、ジェイソンが朗読するインドのタゴールの詩を聞いた母親が発するこのセリフこそ、ヤスミン監督の映画が国境を超えて愛される理由であり、同時にヤスミン監督が映画で描いた理想の多民族国家「マレーシア」だったのかもしれない。

映画「細い目」の一場面

 日本人の祖母をモデルにした「ワスレナグサ」の撮影準備をしていた09年7月25日に脳卒中のため亡くなったヤスミン監督。国際的な評価も高く、日本での劇場公開作は「タレンタイム~優しい歌」(09年)のみだったが、手掛けた長編映画全6作品は、映画祭や特集上映などで毎年のように上映され、多くのファンを生んできた。

 “ヤスミンファン”の間で人気が高いのが、ヤスミン監督の実の妹の名前からとった少女「オーキッド」をアマニさんが演じた、自伝的要素が強い「細い目」、「グブラ」(05年)、「ムクシン」(06年)の「オーキッド3部作」だ。

 ヤスミン監督について、「私にとって母であり、彼女は世界そのものです」というアマニさんは、「直接、聞いたわけではないけれど」と前置きしつつ、「最初は3部作にしようと考えていなかったんじゃないかな。でもヤスミンは、オーキッドとジェイソンというキャラクターに恋をしたのだと思います」と語る。

 「細い目」のオーディションでオーキッド役に抜てきされた当時、17歳だったアマニさん。映画初出演で、演技経験もなかった。「学校の演劇やダンスなどの授業で、人を楽しませることが好きでした。ひそかで曖昧な夢が『細い目』で実現した。プロとして本格的に俳優を目指すきっかけになりました」

ヤスミン監督にとって「理想主義者」は褒め言葉

チャプリンの映画と、山田洋次監督の「男はつらいよ」シリーズを愛したというヤスミン監督

 マレーシアの民族は大きく、マレー系、中華系、インド系に分かれる。公用語はマレー語だが、中華系は中国語(広東語、北京語)、インド系はタミル語を使用し、英語を話す人も多い。国教はイスラム教だが、仏教、ヒンズー教、キリスト教など、主に民族ごとに異なる宗教を信仰している。

 マレー系でムスリムのヤスミン監督は映画で、民族、宗教、言語が異なる人々との共生を描いてきた。民族間のあつれきやさまざまな問題を提示しつつも、あくまでも温かく寛容なその世界は、当時のマレーシア社会の現実を映しているわけではなかった。

 「ヤスミンは理想主義者と呼ばれていました。でもそれは彼女にとって褒め言葉だった。自身のブログにも“嫌ってくらい”前向きで楽天的なことを書いていました。自分が理想主義者であることを誇りに思っていたはずです。希望を奨励する。それは悪いことではないでしょ? その反対のことをしている人はたくさんいるから」

 初恋という普遍的なテーマを描いた「細い目」だが00年代のマレーシアで、民族を超えた恋愛は決して「当たり前」ではなく、そのようなラブストーリーが映画で語られることはまれだった。そもそもマレーシアの映画製作振興を目的とした機関、マレーシア映画振興公社(FINAS)は当時、セリフがマレー語の作品を「マレーシア映画(国内映画)」と定義していたこともあり、「細い目」のように、マレー語以外に、中国語、タミル語、英語が使われる映画もほぼ存在しないに等しかった。

 また、少年が詩を、少女が香港映画を好んだり、メイドが雇い主に指図したり、いわゆる社会的な役割を反転したキャラクターも登場させた。夫婦がダンスするシーンやアマニさんの脚が見えるシーンなど「映画で描かれるべきでない」と9カ所も検閲を受けた。「細い目」は、ヤスミン監督のいくつもの「闘い」が秘められた映画なのだ。だからこそ、国内で熱狂的に迎えられたのと同時に、保守派からはバッシングされたという。

「そうそう」と、ときおり日本語を交えて話す表情豊かなアマニさん

 だが、アマニさんはこう語る。「自分と自分の家族が描かれていると思いました。祖母は中華系で、祖父はインド系です。父と母も仲がいい。私は、マレー語、中国語、タミル語、英語など、さまざまな言語を使って生活してきました。それぞれの民族の習慣やタブーも知っている。メイドさんは家族の一員で、尊重すべき存在だった。両親がそのような環境で育ててくれたからです」。オーキッドについても「自分の感情を口に出すことを恐れない性格で、自分を投影できた」。だからこそ「細い目」のシナリオを読み、「皆、慣れ親しんでいるキャラクターだったからこそ、自分はこの映画に参加しなくてはいけないと思いました」

 一方、ヤスミン監督はアマニさんを選んだ理由を「自分の若い頃が思い起こされたから」と話したという。「オーキッドの勇敢で好奇心旺盛なところはヤスミンそのものだし、男性の趣味もそう(笑い)。ヤスミンと私のミクスチャーがオーキッドというキャラクターだった」。映画には、ヤスミン監督が体験した出来事も描かれているという。「『グブラ』でオーキッドの夫が浮気したエピソードも実際に彼女の人生に起きたこと。だから細かい描写を忠実に演じました」

 「大人になって見直して、ヤスミンの映画の偉大さに気づいた」とアマニさん。「細い目」が日本で公開されることについて、「映画に新しい生命を吹き込んでくれるようで、とてもうれしい」と語る。「これからも繰り返し見続けられるべき、喜びや悲しみなどさまざまな感情が混在する愛にあふれた作品です。映画のテーマは今の時代にこそ響く。国籍を問わず、普段映画を見ない人たちも楽しめるはずです」


シャリファ・アマニ 1986年、マレーシア生まれ。映画、舞台で活躍。「タレンタイム~優しい歌」では、サード助監督を務める。細井尊人監督の「クアラルンプールの夜明け」(12年)にも出演。オムニバス映画「アジア三面鏡2016:リフレクションズ」で行定勲監督がマレーシア撮影に挑んだ短編「鳩 Pigeon」では主演のヤスミン役を演じた。自らも短編映画を監督するなど多彩な活動を続けている。マレーシア・アカデミー賞で05年最優秀新人賞(細い目)、06年最優秀女優賞(グブラ)を受賞

上映情報

【細い目】

 アップリンク吉祥寺(東京都武蔵野市)、アップリンク渋谷(東京都渋谷区)で公開中、全国順次公開

公式ウェブサイト :http://moviola.jp/hosoime/

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