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オーケストラのススメ

~36~ 来シーズンの日本のオーケストラ~生誕250周年のベートーヴェンを中心に

山田治生

 秋になって、日本のオーケストラの来年度のプログラムが次々と発表されている。2020年はベートーヴェンの生誕250周年ということもあり、彼の作品に取り組むオーケストラが多い。東京都交響楽団は7人の指揮者でベートーヴェンのすべての交響曲を演奏し、名古屋フィルも8人の指揮者で全曲演奏する。ピエタリ・インキネン&日本フィルと下野竜也&広島交響楽団は、2019年から2年がかりでツィクルスを進行させている。ジョナサン・ノット&東京交響楽団は4年前から取り組んできた交響曲全曲演奏をようやく完結させる。

この10月にベートーヴェン・ツィクルスを始動したインキネンと日本フィル (C)山口敦

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 ベートーヴェンの交響曲全曲演奏の場合、どんな作品と組み合わせるのかが最大の焦点となる。ベートーヴェンの交響曲ばかりを4または5日間で演奏したり、オール・ベートーヴェン・プログラムを組むのが一番オーソドックスなやり方といえるだろう。来年、ウィーン・フィルは、アンドリス・ネルソンスの指揮でウィーンのほか、パリ、ハンブルク、ミュンヘンにおいて各4日間でベートーヴェンの全交響曲を演奏するが、日本での公演はない。

 近年は、ベートーヴェンと近現代作品を組み合わせるプログラムも多くなってきた。なかでもノット&東響のプログラミングはとても刺激的で興味深いものであった。第1番(2019年7月)は、バリー・グレイの「ザ・ベスト・オブ・サンダーバード」、リゲティのピアノ協奏曲▽第2番(2020年4月)は、ストラヴィンスキーの「カルタ遊び」、酒井健治のヴァイオリン協奏曲「G線上で」▽第3番(2017年12月)は、リゲティの「ハンブルク協奏曲」ほか▽第4番(2018年11月)は、ストラヴィンスキーのヴァイオリン協奏曲ほか▽第5番(2015年7月)は、ストラヴィンスキーの「管楽器のための交響曲」、バルトークのピアノ協奏曲第1番▽第6番(2016年7月)は、ヴィラ=ロボスの「ニューヨーク・スカイライン・メロディ」、アイヴズの「ニューイングランドの3つの場所」▽第7番(2019年5月)は、ブーレーズの「メモリアル(…爆発的—固定的…)」、ヤン・ロビンの「クォーク」▽第8番(2017年5月)は、ハーマン(パーマー編曲)の「タクシードライバー」、バートウィスルの「パニック」と、それぞれ組み合わせた(第9番は「第九」のみ)。

ジョナサン・ノットと東響=7月27日・ミューザ川崎シンフォニーホール (C)青柳聡

 ノットの、ベートーヴェン作品への20、21世紀音楽の並置は、単なる添え物ではない。聴衆に偉大なベートーヴェンの交響曲を聴くついでに現代音楽も聴かせてしまおうというものでもない。ベートーヴェンと同じステージに現代の作品を並べることによって、ベートーヴェンの天才が一層際立つかもしれないし、現代の傑作はベートーヴェンに匹敵すると思うかもしれない。もしかしたら、ベートーヴェンよりも現代の音楽の方がいいと思うかもしれない。それを聴衆に判断してもらおうというものであろう。ノットの好みだろうが、ストラヴィンスキーやリゲティの作品が複数回登場しているが、「サンダーバード」の音楽や「タクシードライバー」の音楽がベートーヴェンと並べられているのも興味深い。我々のなじみの音楽を聴いた耳に「ベートーヴェンはどう聴こえますか?」とノットが尋ねているようだ。

「ディスカバリー・シリーズ」でベートーヴェンに取り組んでいる下野と広響=10月4日・JMSアステールプラザ大ホール 写真提供:広島交響楽団

 下野竜也&広島交響楽団は、「ディスカバリー・シリーズ(ベートーヴェン生誕250周年交響曲シリーズ)」として今年5月から2シーズンかけてベートーヴェンの全交響曲の演奏に取り組んでいる。副題に「Hosokawa×Beethoven」とある通り、広島出身の細川俊夫の作品と組み合わされる。下野は、それぞれの演奏会で細川の協奏曲的な作品とともにベートーヴェンの交響曲を成立順に1曲ずつ取り上げていく。ドイツで学び、音楽とシリアスに向き合う細川の音楽には、ベートーヴェンと共通するものが感じられるかもしれない。

 名古屋フィルも、定期演奏会で取り上げる4曲に関しては、近現代作品と組み合わせている。2020年4月は、エド・デ・ワールトの指揮で、ジョン・アダムズの「主席は踊る」、「アブソリュート・ジェスト」、ベートーヴェンの第7番、5月は、ジェフリー・パターソンの指揮で、ラヴェルの「クープランの墓」、藤倉大の三味線協奏曲、ブレット・ディーンの「テスタメント」、ベートーヴェンの第2番、7月は、アントニ・ヴィットの指揮で、ヨン・レイフスの「ベートーヴェンの主題によるパストラル変奏曲」、バルトークの2台のピアノと打楽器のための協奏曲、ベートーヴェンの第6番「田園」、12月は、マキシム・パスカルの指揮で、ベートーヴェンの第8番、酒井健治のピアノ協奏曲「キューブ」、ドビュッシーの「映像」、となっている。

 今年10月に始まったインキネン&日本フィルのツィクルスは、ベートーヴェンの作品に、プラハ交響楽団の首席指揮者を兼務するインキネンが熱心に取り組んでいるチェコ音楽からドヴォルザークの演奏機会の少ない曲(歌劇「アルミダ」序曲、序曲「フス教徒」など)を組み合わせる。

大野和士と都響=4月26日・サントリーホール 東京都交響楽団提供(C)Rikimaru Hotta

 東京都交響楽団では、2020年9月の音楽監督・大野和士によるオール・ベートーヴェン・プログラムに注目。このコンサートでは、矢部達哉の都響コンサートマスター30周年を記念して、チェロの宮田大、ピアノの小山実稚恵らとともに三重協奏曲が演奏される。大野の指揮する第3番「英雄」も楽しみだ。また、年末の「第九」は、首席客演指揮者のアラン・ギルバートが担う。

 NHK交響楽団は、2020年6月に鈴木雅明を迎え、「ミサ・ソレムニス」を上演する。鈴木が音楽監督を務めるバッハ・コレギウム・ジャパンの合唱団が参加するのに注目。近年、古楽系の指揮者とコラボレーションを重ねるN響だけに大きな成果が期待される。読売日本交響楽団では、4月に鈴木優人が指揮者/クリエイティヴ・パートナーに就任し、9月のマチネーシリーズで、ヴァイオリン協奏曲と交響曲第6番「田園」を取り上げる。紀尾井ホール室内管弦楽団は、2月に、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲と交響曲第7番を演奏する。ウィーン・フィルのコンサートマスターであり、紀尾井ホール室内管弦楽団の首席指揮者も兼務する、ライナー・ホーネックが弾き振りを披露する。

 ピリオド楽器によるオーケストラでは、鈴木雅明&バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)が2020年11月の定期演奏会で交響曲第5番「運命」と「ミサ曲 ハ長調」を上演するのが注目される。鈴木の満を持してのBCJでの「運命」は興味津々。「ミサ曲 ハ長調」ではBCJの純度の高い合唱が堪能できるだろう。

筆者プロフィル

 山田 治生(やまだ はるお) 音楽評論家。1964年、京都市生まれ。87年、慶応義塾大学経済学部卒業。90年から音楽に関する執筆を行っている。著書に、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」「トスカニーニ」「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方」、編著書に「オペラガイド130選」「戦後のオペラ」「バロック・オペラ」などがある。

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