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「表現の不自由」考~補助金不交付を問う

補助金不交付は「検閲」の疑い 不自由展中止は冷静に議論を 作家・辻田真佐憲さん

近代史研究者、辻田真佐憲さん=東京都江東区東陽3で2017年12月4日午後5時8分、鈴木英生撮影

 14日に閉幕した国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」。脅迫や抗議によって企画展「表現の不自由展・その後」は中止され、最後の数日間だけ再開された。中止を巡って賛成派は「作品は政治的なプロパガンダ」、反対派は「戦後日本最大の検閲」などと非難の応酬が続いた。戦前の表現規制や国威発揚に造詣が深い作家の辻田真佐憲さんは「こうした言葉が来歴から切り離されて利用されている」と指摘し、冷静な議論を促す。一方で、文化庁による愛知県への補助金交付の取りやめについては危機感があるという。【大村健一/統合デジタル取材センター】

表現の不自由展 炎上を防ぐために必要だったことは?

――まず、「表現の不自由展・その後」を巡る一連の出来事についてどのように見ましたか。

 不自由展は再開後に行ったのですが、抽選に外れて入れませんでした。見ていないので何とも言えない部分が大きいですが、一部の作品は本来持っていた文脈から切り取られ、ツイッターなどで拡散された印象です。

 すべての分野で専門的な知識を得ることは現実的に不可能です。芸術に精通した人同士ならば作品の文脈について深く議論もできるでしょうが、一般の人にそれは難しい。

 「こういう文脈で作られた作品」「こういう趣旨で企画された展示」と紹介するなど、攻撃に対するキャッチーで分かりやすい反論を用意していれば、結果も違ったのではないでしょうか。それは歴史修正主義への対策にも通じる話です。

――具体的にはどのようにすればよかったのでしょうか。

 攻撃する側はすごく単純な論理を言ってくるわけです。今回のケースで言えば左派的な作品が多いから、その点が批判の主因になりました。だから、右派的な作品で規制されたもの、もしくは「卑わいだから」と規制されたものもバランスよく入れておけば「表現の不自由展」の趣旨が一般の人にも伝わりやすかったのではないかと思います。

 それがあれば、ここまで批判も大きくならなかったかもしれません。すぐにSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が炎上する社会においては、それを想定して、防波堤になる「分かりやすい物語」を用意しておくことも必要でしょう。今回の出来事は今後の同種の芸術祭への教訓になると思います。

「検閲」と「プロパガンダ」という批判の応酬

――中止を巡っては「プロパガンダ」と「検閲」という言葉が飛び交いました。戦前のそれらに関する著作もある辻田さんはどのように感じましたか。

 8月初め、自民党保守系議員のグループ「日本の尊厳と国益を護る会」が不自由展について「芸術や表現の自由を掲げた事実上の政治プロパガンダ」と訴えました。不自由展が中止に追い込まれると、不自由展実行委は「戦後日本最大の検閲」と抗議しました。最近はこれらの言葉が、元々の来歴から切り離されて使われるケースが、思想の左右問わず横行しています。

 まず「プロパガンダ」は基本的に政府や政党など公的機関が行う組織的な政治的宣伝を指す言葉です。では、今回はどうだったか。

 「平和の少女像」で言えば、作者のキム・ウンソン、キム・ソギョン夫妻には、ベトナム戦争での韓国軍の蛮行に関する作品もあり、批判的な芸術家として韓国政府の「ブラックリスト」に載った時期もあったといいます。韓国政府と同じ主張をしている芸術家ではありません。

 公的機関から独立したアーティストが自分の作品に政治的な意図を込めても、それはプロパガンダではなく、オピニオンです。政治性のあるものすべてがプロパガンダではありません。

――では、現代の「プロパガンダ」にあたるものとは。

 たとえば今年5月に自民党が展開した「#自民党2019」はプロパガンダの典型です。安倍晋三首相のイラストを(テレビゲームの「ファイナルファンタジー」シリーズのキャラクターデザインなどで知られる)天野喜孝氏に描かせるなどしたキャンペーンです。与党や政府だけでなく、共産党が動画アプリ「TikTok」に開設した公式アカウントもそうでしょう。

――不自由展実行委が訴えた「戦後日本最大の検閲」はどうでしょうか。

 最高裁の判例による検閲の定義はかなり狭く、「事前に内容を審査して不適当と認めるものの発表を禁止すること」などとされています。そう考えると、今回の件は公開後に中止となったので検閲ではない。

 ただし、その定義なら、中国政府のネット検閲だって「事後」なので検閲ではなくなってしまう。戦前日本の検閲も、活字媒体などは原則として事後審査でした。

 もう少し歴史的、文化的な文脈から広く考えるならば、検閲とは「公権力が作品の内容を審査し、不適切と認めたものに対して禁圧措置を取ること」ぐらいに捉えた方がいいでしょう。

 今回は脅迫や電凸(電話による攻撃)などを受けて「安全性の確保ができない」と、あいちトリエンナーレ実行委員会が不自由展の中止を判…

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