不正販売甘く見た「郵政」 報道の役割軽視「経営委」 負の連鎖が招いた「NHKかんぽ問題」

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参院予算委員会でかんぽ生命保険の不正販売を追及したNHK番組を巡る問題について答弁に向かう石原進NHK経営委員長(前列中央)。前列左端は日本郵政の鈴木康雄上級副社長、同右端は上田良一NHK会長=国会内で2019年10月15日午後2時46分、川田雅浩撮影
参院予算委員会でかんぽ生命保険の不正販売を追及したNHK番組を巡る問題について答弁に向かう石原進NHK経営委員長(前列中央)。前列左端は日本郵政の鈴木康雄上級副社長、同右端は上田良一NHK会長=国会内で2019年10月15日午後2時46分、川田雅浩撮影

 かんぽ生命保険の不正販売を追及したNHK番組を巡り、日本郵政グループの抗議に同調したNHK経営委員会が上田良一会長を厳重注意した問題は、発覚から1カ月が経過し、経営委や上田会長、郵政側の見解が出そろった。それぞれ自らの問題性を直視しない説明が続くが、経過を検証すると、不正販売の深刻さを甘く見た郵政側や、報道の役割を軽視した経営委の実態が浮かぶ。上田会長ら執行部の弱さもNHKの「自主自律」をゆがめる要因になった。【NHK問題取材班】

「自分が解決する」元総務次官の「官僚意識」

 問題の発端は、NHKが昨年7月に公開したネット動画2本だった。同年4月24日にいち早く不正販売を報道した「クローズアップ現代+(プラス)」が8月10日の続編放送を目指して情報を募る動画だが、郵政側は強く反発して削除を要求。その後の番組編集権を巡る抗議にまで発展した。背景には、郵政経営陣が不正問題を甘く見たことに加え、元総務事務次官の鈴木康雄・日本郵政上級副社長のNHKを見下す意識も作用したと見る関係者は多い。

 「動画で『かんぽ詐欺』『押し売り』と述べていた。電車の中づり広告と同じじゃないかと、取り下げを要請した」。鈴木氏は参考人で呼ばれた今月15日の参院予算委で、昨年7月に動画削除を求めた経緯を説明。「(番組側は続編の)取材を受けるなら動画を外してもいいと言ってきた。反社会的勢力と同様ではないか」と怒りをあらわにした。ただし、NHKはこれに対し、取材交渉の条件として動画削除や会長名文書での回答を求めてきたのは逆に郵政側だったと反論している。

 昨年7月当時、郵政側は、高齢者の保険契約を巡る苦情件数の多さを受け、対策に乗り出していた。実際、苦情は減少し、鈴木氏や長門正貢(まさつぐ)・日本郵政社長らは自信を持っていた。4月の番組にグループの役員2人が出演したのは、改善努力をアピールできると踏んだからとみられる。だが、こうした取材協力にもかかわらず、動画で「悪の権化のような」(長門氏)扱いを受けたと郵政経営陣は激怒し、グループ3社長連名の異例の抗議を繰り返した。

 抗議を主導したのは鈴木氏だ。鈴木氏は総務省で放送行政に長く関わり、2007年に情報通信政策局長としてNHKのガバナンス(統治)強化を定めた放送法改正に携わった。郵政グループでは、与党国会議員らとのパイプ役で菅義偉官房長官とも近い。政府・自民党には今も、鈴木氏ら郵政側の抗議に理解を示す声が強い。

 日本郵政をよく知る関係者は「鈴木氏は『自分が解決する』と周囲に言って頑張った」と明かす。鈴木氏は昨年9月25日には、NHKの森下俊三・経営委員長代行(元NTT西日本社長)と面会し、NHK執行部への不満を伝え、「経営委で検討してほしい」と要請。同委が上田会長を厳重注意した後の昨年11月7日には、同委宛てに感謝状を送り「かつて放送行政に携わった」と経歴を強調した上で、執行部への「引き続き強力な指導・監督」を念押しした。与党議員は「鈴木氏は、自分たちが許認可権限を持っていたところは、言うことを聞いて当然という官僚意識が抜けない」と指摘する。

 だが、一連の抗議は結果的に「言いがかり」(野党議員)になった。「問題は改善している」との経営陣の思い込みに反し、今年6月以降に次々と不正販売事案が発覚。9月末時点で不正件数は約6300件に膨らんだ。長門氏は同月末の会見で「今となっては(番組は)全くその通り…

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