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岡崎 武志・評『佐藤洋二郎小説選集一 待ち針』『タイトル読本』ほか

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今週の新刊

◆『佐藤洋二郎小説選集一 待ち針』佐藤洋二郎・著(論創社/税別2000円)

『佐藤洋二郎小説選集一 待ち針』は、単行本未収録作も含め、文業を編み直す試みだ。佐藤洋二郎は1949年福岡生まれ。村上春樹、佐藤泰志などと同い年。時代の閉塞感に抗(あらが)う姿勢は共通する。 表題作は、閉山になった九州のボタ山をバックに、出口のない男と女が蠢(うごめ)く姿が描かれる。連れ子のいる年上の女を置いて、東京の工事現場へ出稼ぎに行く男。転落事故で重傷を負う。女には別の男ができて……と演歌が流れそうな筋立てだが、確かで克明な筆致は人間存在の根本をえぐり出す。 同じく東京と九州が登場する「三日月」は、故郷のブロイラー工場が舞台。障害、売春、ヤクザ、アル中と人間が裸形のまま表出される。暴力と性にこそ「生」があると言いたげだ。「待ち針」とともに、タイトルが小道具として作品を引き締めている。 盗撮、盗聴、盗視などでしか他人と関われない若者を扱う「他人の夏」など愉快ではないが、親密な気持ちになって引き込まれていく。

◆『タイトル読本』高橋輝次・著(左右社/税別2000円)

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