オピニオン

作品の中のことばの響きや表現を味わう それこそが読書の喜び 文化社会学部文芸創作学科 講師
青山 七恵

2019年11月1日掲出

 今回、ご登場いただいたのは文化社会学部の青山七恵講師。2007年、『ひとり日和』で芥川賞を受賞し、09年には『かけら』で歴代最年少で川端康成文学賞を受賞するなど、注目の作家だ。子供向けのファンタジー小説に熱中した少女時代、フランソワーズ・サガンの『悲しみよこんにちは』にショックを受けた高校生時代と、作家を志すに至るまでのエピソードを語っていただきながら、活字離れと言われる今日、若い人に向けて読書の素晴らしさを伝えるために、授業でどのような工夫をしているかについても聞いた。【聞き手・中根正義】

 

『悲しみよこんにちは』に触発された作家への思い

──小学校時代に、アガサ・クリスティを読まれていたとか。

 クリスティを知ったのは小学校高学年です。小さい頃はファンタジーや『おちゃめなふたご』シリーズなどの海外の児童文学が好きでしたが、日本の『クレヨン王国』シリーズなどのファンタジー小説も夢中になって読んでいました。さらに、自分でも話をつくって妹に聞かせたりしていました。

 

──もともと、物語を創作することが好きだったんですね。

 小学校が子供の足で1時間くらいかかるほど遠かったので、一人で下校することが多く、その帰り道に話を自分のなかで組み立てるようなことをよくしていました。それを文章にしてみようとは思わなかったのですが、空想好きな子どもだったことは間違いありません。 いわゆる純文学を読むようになったのは中学生の頃。吉本ばななさんや教科書に出てくる川端康成、夏目漱石といった著名作家の小説は、それまで読んでいた子ども向けの本とはまったく違うので、何も大きな事件が起こらなくても小説になるんだと、新鮮な驚きを覚えた記憶があります。

 高校生になり、フランソワーズ・サガンの小説『悲しみよこんにちは』に出合い、そこでまたショックを受けました。この小説を書かれたのはサガンが19歳の時。私が読んだのは17歳の時ですから、2歳しか離れていない人がこんな小説を書いたことに驚き、自分も本当に何か書きたいのなら、すぐにでも書き出さねばという思いを強くしました。

 

──大学は、本に囲まれた仕事をしたいと、図書館司書を目指して図書館情報大(現・筑波大)に進学されましたが、もともと、物語を創作することが好きだったんですね。

 創作は好きでも、小説家になれるとは思っていなかったので、本と関われる仕事として図書館司書を考えました。しかし、「小説を書きたい」という気持ちは強くあり、図書館で本を読んだりしていました。高校時代もサガンを読んだ直後に小説を書いてみようとしたのですが、手書きだとどうしても続かず、手書きで書いたものを読み返してもまったく小説としての体をなしていないと思って止めてしまうことの繰り返しでした。大学に進学して、実習室のパソコンを使って書いてみたのをプリントしてみたら、活字になっているだけでなんとなく小説らしく見えて、これならできるかもと書き続けるようになりました。

 

書きながら頭のなかのアイデアを膨らませていく

──文芸賞を受賞された『窓の灯』は、大学在学中に書かれた作品です。

 大学4年の時に書いた小説を、4年生の3月に応募しました。受賞したのは東京で会社員として働くようになった夏です。これ以前にも2作他の文学賞に応募したことがあったので、『窓の灯』は3作目ということになります。

 

──芥川賞受賞作品である『ひとり日和』は当時通勤途中の電車の中で思いつかれたそうですが、小説を書かれる際のアイデアの出し方や、創作の際のこだわりなどがあればお聞かせください。

芥川賞を受賞し、笑顔を見せていた青山さん。当時、史上7番目の若さの23歳 での受賞が話題になった=2007年1月

 原点は、小学校時代のひとりの帰り道にあると思います。頭の中でいろいろと話を膨らませていくわけですが、「こんな感じでいけるかな」という感覚があったらとにかく書いてみて、書きながら考えていくことが多いですね。特に短編などは、例えば赤ん坊の時の私と祖母が写っている写真からインスピレーションを得たり、本当にあったのか、捏造なのか定かではない小さいころの不思議な記憶について書いてみたり……。一つの体験や友人から聞いた話などがアイデアの源になることが多いのですが、書き始めるとまったく別のものに変貌していくので、そこは書くことの面白さだと実感しています。

 小説を書くことは文章を一文ずつ積み上げていくことなので、「このことはどうしてもこの言葉でないと言い表せない」という思いで書くように心がけています。

 

 

共感できないからこそ別の見方を得ることもできる

──読書の魅力を伝えるために、大学の授業ではどんな工夫をされていますか。

 学生の興味を引くようなやり方で、できるだけたくさんの小説を紹介します。ジャンルは純文学や古典が中心です。例えば、ある作品の中に出てきた小説はどのような作品なのか、この作者が影響を受けた作家は誰かというように、時代や国を問わずつなげていくというような方法で学生の興味を喚起するようにしています。春学期にジェーン・オースティンの『高慢と偏見』を採り上げましたが、作中の愛の告白のシーンに注目して、文学作品の中で愛の告白は一体どのように行われてきたのかというテーマで時代の移り変わりとともに愛の告白のシーンを見比べてみるといった授業を行いました。

 

──最後に、「本が苦手だ」と思っている人に、アドバイスをお願いします。

 読書は、読み手が能動的に読み取ろうしないと面白くないですよね。それだけに、本と対話するような気持ちで向かい合うと良いと思います。また、同じ本でも人によって読むのにちょうど良いタイミングは異なると思います。私も名作に挑戦して挫折した経験が何度もあります。しかし、20代ではまったく手に負えなかった本が、30代で突然自分の気持ちにフィットして夢中で読み進められるということもあります。本そのものは変わりませんが、自分自身はどんどん変わっていくので、読むべきタイミングで、会えるということも大事だと思います。

 クリエイティブライティングなどの創作系の授業の導入で、よく小説をアイスキャンディに例えて話します。「アイスキャンディを支えている木の棒の味を確かめることが、アイスのおいしさを味わうことではない」というものです。アイスは木の棒がないとアイスの形を保つことができないのと同じように、小説も支える構造がないと成り立ちません。しかし、小説を読む喜びというものは、小説を支える構造やテーマ以上に、そこに使われている言葉そのものや表現などを味わうものだと思っています。小説に苦手意識がある人は、どうしても効率よく読むことを考えて、メッセージを読み取ったり、正解を言い当てたりすることを本を読む目的としてしまうからではないでしょうか。小説は言葉の集まりです。作家は意識して言葉を選んで一語一語をつないでいるので、言葉の響きや組み合わせ、その言葉を使った一文でしか生まれない何かを感じ取ってほしいし、味わってほしいと常に言っています。

 

──読んでいる本への共感も大切なのでしょうか。

 共感できないからつまらない、読まないというのは本当にもったいない。共感できない、自分と違うからこそ、この小説の世界では何がどのように見えているのだろうと考えることが大切です。1冊の本を前にすると、この小説のなかにはどんな未知のものが書かれているのか、どんな新しい言葉に出会えるのか、いまだにわくわくします。それから小説の中で分からない言葉が出てきたら、必ず辞書で調べてくださいと学生によく言います。若いうちにたくさんの言葉の意味を飲み込んで自分のものにして、どんどん自分の言葉の畑を耕していってほしいと思います。

文化社会学部文芸創作学科 講師 青山 七恵 (あおやま ななえ)

1983年埼玉県生まれ。 2005年「窓の灯」で第42回文藝賞を受賞しデビュー、 2007年「ひとり日和」で第136回芥川龍之介賞、 2009年「かけら」で第35回川端康成文学賞受賞、 著書に『窓の灯』『わたしの彼氏』『快楽』『めぐり糸』 『風』『踊る星座』『ブルーハワイ』など。最新刊は『私の家』