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「再開、めっちゃうれしいわ」。3月末から一時閉店していた大阪市立中央図書館(同市西区)の地下食堂が10月23日、店名やメニューを一新してオープンした。
料理を作るのは元有名ホテルの料理長で、日替わりランチがサラダバー・ドリンクバー付きで1000円。シニア向けに食事量を考慮した600円メニューがあり、子どもが遊べるキッズスペースも完備と各世代への配慮も行き届いている。
近年、公共施設・市役所の食堂がコンビニの増加、人口減少などの理由で全国的に次々と閉鎖されている。大阪市内で最大規模の図書館で、年間137万人が来館する市立中央図書館でさえも、1996年から続いた地下食堂が利用者の減少で閉店した。
この難しい状況のなかで、食堂の再始動に立ち上がったのが飲食店のサポート会社「ネクストジェネレーションズ」の代表取締役、浜埜(はまの)容二さん(38)だ。浜埜さんはザ・リッツ・カールトンをはじめ有名ホテルの飲食部門を経験し、5年前に独立した。
図書館食堂の特徴は、厨房(ちゅうぼう)やホールで働く人の多くが短時間しか勤務できないママ世代、障がいのある人たちであることだ。経験が少ない人でも働けるように券売機やドリンクバー、サラダバーを導入。お客さんがセルフで動けるようにし、未経験スタッフでも質の高い仕事に専念できる環境を作った。
「飲食業界は常に人手不足。でも外国人、高齢者、障がい者、ママら誰もが直面する働く時間、作業の難易度などのハードルを、店側が働きやすさに変えていけば人は必ず集まってくるんです」と浜埜さん。実際、スタッフ募集には約90名の応募があった。外部とも連携し、企業の障がい者スタッフの研修を食堂で受け入れる取り組みも進めている。
そんな浜埜さんを育てたのは、4歳から始めたラグビー。大学時代にはニュージーランドにスポーツ留学をした経験もあり、一人でも欠けたら成り立たないこのスポーツで人を大切にする姿勢を学んだ。また、ホテルの総支配人を務めていた父からはホスピタリティーのあふれる対応を吸収した。社会人になり、ホテルの飲食部門で大所帯をまとめていく立場になった。
「経験がないスタッフはできなくて当たり前。逆に慣れている人はできて当たり前。でも“できる人”にできないことがあるんです。それは“できない人”だけが持っている笑顔」。浜埜さんが経験のあるスタッフに必ず伝えていることは、「経験者ではできない、とびきりの笑顔を心がけるように」。それを毎日毎日、伝えていくと、レストラン全体に笑顔が増えていく。
図書館の食堂は、まだ始まったばかり。取り組みの中で、幼子を抱えた母親が他者とのつながりなくご飯を食べる「孤食」、図書館を利用する男性高齢者の「孤独」にも気づいた。「いろいろな方が働ける状況を見ていただき、その輪や知識が広がってほしい。そして、図書館や食堂を利用されるお客様にも笑顔を広げていきたい」
図書館食堂「GIVE&GIFT」。午前11時半~午後6時(土日・祝日は午後4時まで)。第1、3木曜は休み。<次回は29日掲載予定>
■人物略歴
中川悠(なかがわ・はるか)さん
1978年、兵庫県伊丹市生まれ。NPO法人チュラキューブ代表理事。情報誌編集の経験を生かし「編集」の発想で社会課題の解決策を探る「イシューキュレーター」と名乗る。福祉から農業、漁業、伝統産業の支援など活動の幅を広げている。