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常夏通信

その16 74年目の東京大空襲(3) 補償の請求は個人でアメリカへ?

サンフランシスコ平和条約発効による日本独立と新憲法施行5周年を合わせて祝い、憲法記念日に皇居前広場で開かれた「平和条約発効並びに日本国憲法施行五周年記念式典」で、歓呼する参列者と唱和してシルクハットを掲げて万歳するモーニングコート姿の昭和天皇。右は香淳皇后=1952年5月3日撮影

 秋晴れの下、国会前で男性の怒号が響いた。「アメリカ大使館の前でやれ!」

 ちょうど1週間前の先月31日、午後1時前。「戦争の後始末は済んでいない! もう待てない、空襲被害者救済を!」とある横断幕の前に立つ河合節子さん(80)たちに、60歳代にみえる男性は怒鳴り声を重ねた。「顔をさらすぞ!」。その他、活字にするのを避けざるを得ない暴言が続いた。その間、河合さんの横に立っていた私は、男性の顔を見つめながら、迷っていた。

 「どうして何の罪もないままに戦争被害に遭った人たちに、そんな暴言を吐けるんですか。そもそも日本政府はアメリカへの補償請求権を放棄したんですよ」

 そう言おうかと思った。しかし男性の様子を見て「反論したら必ず言い合いになる。騒ぎが大きくなったら、河合さんたちに迷惑が掛かる。かといって、このままこの男性の暴言を許すのは……」。

 時間にして1分程度だっただろう。しかし長く長く感じた。幸い、警備の人が男性を止めて、事なきを得た。

 確かに、人道無視の無差別爆撃でたくさんの非戦闘員を殺したアメリカにも、被害者に補償すべき責任がある。だから、6月に同じ場所でつじ立ちする河合さんたちを見て、19歳の男子大学生が「アメリカに補償を求めるべきじゃないですか」と感じたのも自然だ。

 しかし、その道は閉ざされている。

 サンフランシスコ平和条約第14条(b)には以下のようにある(抜粋)。

 「この条約に別段の定めがある場合を除き、連合国は、連合国のすべての賠償請求権、戦争の遂行中に日本国及びその国民がとった行動から生じた連合国及びその国民の他の請求権並びに占領の直接軍事費に関する連合軍の請求権を放…

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栗原俊雄

1967年生まれ、東京都板橋区出身。早稲田大学政治経済学部卒、同大学院修士課程修了(日本政治史)。96年入社。2003年から学芸部。担当は論壇、日本近現代史。著書に「戦艦大和 生還者たちの証言から」「シベリア抑留 未完の悲劇」「勲章 知られざる素顔」(いずれも岩波新書)、「特攻 戦争と日本人」(中公新書)、「シベリア抑留 最後の帰還者」(角川新書)、「戦後補償裁判」(NHK新書)、「『昭和天皇実録』と戦争」(山川出版社)など。

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