台風19号1カ月 広域避難、課題浮き彫り 大渋滞、駐車場満杯 /埼玉

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独自に行った住民アンケートを整理する栄東自治会・自主防災会の寺本道郎さん(右)ら=埼玉県加須市栄で 拡大
独自に行った住民アンケートを整理する栄東自治会・自主防災会の寺本道郎さん(右)ら=埼玉県加須市栄で

 台風19号上陸から12日で1カ月になる。利根川の水位上昇に伴い、初めて市町村や県境を越えた「広域避難」を伴う避難指示を発令した加須市は、職員へのアンケートなどで当時の対応の検証を始めた。結果的には越水は起こらず人的被害は無かったが、真夜中に避難所に向かう車で大渋滞が起きるなど、多くの課題が浮き彫りになった。【中山信】

加須市北川辺地域から騎西地域方面に避難する住民らの車で混雑する埼玉大橋(奥)周辺の道路=10月13日午前2時40分ごろ(埼玉県加須市提供) 拡大
加須市北川辺地域から騎西地域方面に避難する住民らの車で混雑する埼玉大橋(奥)周辺の道路=10月13日午前2時40分ごろ(埼玉県加須市提供)
埼玉県加須市の広域避難マップ。北川辺地域(矢印の根元)などから広域避難を促している=市ホームページから 拡大
埼玉県加須市の広域避難マップ。北川辺地域(矢印の根元)などから広域避難を促している=市ホームページから

加須市が対応検証

 加須市に近い久喜市栗橋の利根川観測点の水位は10月12日午後9時に氾濫注意水位の5メートルを超え、氾濫危険水位の8・9メートルを超えた13日午前1時に利根川左岸の北川辺地域、午前2時に右岸の大利根地域などに加須市から避難指示が発令された。市の把握分だけで約9500人が避難した。

 市は、災害の恐れがある段階で高齢者などに避難を促す避難準備情報を出し、人的被害発生の危険性が高まった段階で「避難勧告」、さらに危険性が非常に高い時に直ちに避難を求める「避難指示」と、段階を追って発令する方針だった。だが水位が急上昇して事前に避難勧告などを出せず、午後11時に市のホームページで「13日午前4時を目安に避難勧告・避難指示を出す見込み」との予告を掲載するにとどまった。

 住民の多くは13日午前1~2時に防災放送や広報車などでいきなり避難指示を知らされる形になった。北川辺地域から利根川対岸に向かう埼玉大橋周辺などは避難する住民らの車で大渋滞に。普段なら車で20分程度の避難所まで3時間近くかかったり、駐車場が満杯で避難所に入れなかったりする住民もいた。

 北川辺地域は利根川と渡良瀬川に挟まれ、市が今年5月に住民に配布した避難行動マップでは堤防が決壊した場合、全域が深さ5メートル以上、場所によっては10メートル以上浸水する恐れがあるとされている。避難先として利根川を渡った市内の騎西地域などの他、渡良瀬川を渡った茨城県古河市や栃木県野木町、さらに群馬県板倉町なども掲載している。

 北川辺地域の栄東自治会が10月19日から行っている全住民アンケートの途中集計では、回答した85軒のうち67軒が車で避難。避難先は騎西地域が最も多く、群馬、栃木、茨城各県の小中学校などに避難した人もいた。

 自治会で防災を担当している寺本道郎さん(69)は「市は避難行動に必要不可欠な情報を出すのが遅く、住民は大混乱に陥った。洪水が発生したら甚大な被害を生んだはずで、市はきちんと検証して住民に説明し、同じことを繰り返さないようにすべきだ」と指摘する。一方で自治会の活動についても「高齢や1人暮らし世帯、外国人労働者への支援が不十分だった」と振り返り、対応の検証を進めている。

 加須市危機管理防災課と治水課によると、今回の避難では避難所に空きスペースがあるのに駐車場が先に満車になってしまうなど、想定していなかったケースがあったという。異常気象への対応、避難手段のあり方など、さまざまな課題があることを踏まえ、担当職員へのアンケートなどで検証を進めている。

情報伝達「不十分」広域避難協で加須市長

 利根川中流域の埼玉、茨城、栃木、群馬の4県7市町と国が、利根川氾濫時の広域避難のあり方を考える「利根川中流4県境広域避難協議会」が11日、加須市の北川辺総合支所で行われた。台風19号上陸後、初めて広域避難を実施した同市の大橋良一市長は「(避難)情報の徹底が十分ではなかった」と、対応の難しさを述べた。

 約900人が市外へ避難した加須市では、避難指示に先立ち、市が独自に「避難勧告・指示を発令する見込み」と発表していた。大橋市長は「最初から避難情報を出すのはいかがなものかというのもあり、『こういうものを出す』という避難情報の予告のようなものを出した。ただ、十分市民に到達しておらず、大きな反省点だ」と説明した。

 他の出席者からは「水位の上昇が早く、計画通りの避難の呼びかけができなかった。広域避難情報を周知するタイミングの再検討が必要」などと課題が挙げられた。

 協議会でアドバイザーを務める片田敏孝・東大大学院特任教授(災害社会工学)は「日本では広域避難が定着していない中、対応できたのは良かった」とする一方、「避難先が(浸水などで)危険だったかもしれない。広域避難計画の精緻化を早く行う必要がある」と、さらに検討を重ねる必要性を指摘した。【畠山嵩】

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