一年中、「8月ジャーナリズム」をしている常夏記者こと私には、季節にかかわらず、戦争にまつわる話をするようにとの依頼がある。数年前、ラジオ番組に招かれ、空襲被害者が補償されないまま放置されている現状を話した。生放送中にリスナーから反応があった。「当時の政治家を選んだ国民にも責任がある……」という趣旨のものだった。
司会者にコメントを求められ、こう思った。「ああ、そんなふうにとらえられているんだな。被害者たちを支援する声が広がらないわけだ」
大日本帝国の時代、ことに帝国が第二次世界大戦にのめり込んでいく時代に、国民がどれだけ「政治家を選んだ」のか。選ばれた政治家はどれくらい国策決定に関わったのか。その史実をまず押さえておきたい。
帝国議会は貴族院と衆議院から成っていた。前者を国民が選ぶことはできなかった。後者の選挙権を持っていたのは25歳以上の男性だけだった。成人しても女性に参政権はなかった。その、ほんの一部の国民が選んだ政治家でさえ、首相になって国政をリードすることはまれだった。
政党政治が定着した現代ならば、各政党は党首が首相候補ともなる。しかし、帝国ではそうではなかった。アメリカやイギリスなどと勝てるはずのない戦争を始めた時の首相、東条英機、その前に日中戦争を泥沼化させて国家破滅への道を開いた近衛文麿首相も政党の党首ではなく、衆院議員でもなかった。軍官僚や宮廷政治家など、国民が選べない人物が国政を左右したのが大日本帝国だった。そして、そういう国家体制に反対する言論の自由はなかった。
「そんな時代の国民に、戦争責任を押しつけるのはあまりにも酷に過ぎるのでは」。ラジオのその番組…
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1967年生まれ、東京都板橋区出身。早稲田大学政治経済学部卒、同大学院修士課程修了(日本政治史)。96年入社。2003年から学芸部。担当は論壇、日本近現代史。著書に「戦艦大和 生還者たちの証言から」「シベリア抑留 未完の悲劇」「勲章 知られざる素顔」(いずれも岩波新書)、「特攻 戦争と日本人」(中公新書)、「シベリア抑留 最後の帰還者」(角川新書)、「戦後補償裁判」(NHK新書)、「『昭和天皇実録』と戦争」(山川出版社)など。
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