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日本文化をハザマで考える

第15回 どうしてもミナミに行きたい

道頓堀の看板

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 「南に行かないか?」

     去年、私が一番古い友達と一緒に新幹線で名古屋から西へ向かっていた時、その友達が突然言った。午前中は、雨と霧の中を、他の友達と一緒に、歴史があって魅力的な犬山市で犬山城や露地庭園、そして目抜き通りを歩き回った。夕方近くになると、私たち二人は名古屋でグループから離れて日本でも指折りの熱田神宮へと向かっていた。

     3連休も終わりに近づき、私がまっすぐうちへ帰ろうとしているのを彼も知っていた。しかし彼が口にした「南」という言葉は、私を立ち止まらせ、考え直させた。ああ、私の愛する南。どれほど私は南へ行きたいだろうか。

     彼は、大阪の「ミナミ」の事を言っているのだった。たいていの旅行者は行かないが、その道の達人にとっては日本で一番面白い所の代名詞だ。ミナミにはバー、レストラン、ナイトクラブ、しゃれた店の他に、ホステスのいる昔風のバーもある。それに若者文化もあればポン引きもいる。みだらな部分もあれば、純朴さもあり、ワクワクする楽しさもある。人生を価値があるものにするすべてがあるのだ。

     何年も何年も、私は毎日昼も夜もミナミに行って、ロザリオの祈りを唱える時のように、船場から難波へと向かう道のすべてを空で言うことができたし、ミナミにある、通しか知らない隠れ家的バーやレストランに連れて行ってあげることもできた。ミナミの道を歩くと、他のどこでも感じることができない幸福を感じることができた。

     正直言って、ミナミが客観的に見て、東京や京都や数々の他の都市の歓楽街より実際にいいのかどうかはわからない。しかしミナミのように私の興味を引き、私と気持ちが通じ合い、私をワクワクさせる所は他にない。

     私がそれほどミナミにひかれるのは、大阪の「アウトサイダー」としての地位と関係があると思う。大阪は、東京や京都のような確立された権力が集中した都市に常に威勢よく反対している。しかしその大阪の中でも、どこでもいいというわけではない。ビジネスマンの遊び場の北部や、東の郊外には興味がない。ミナミでなければならないのだ。

     もちろん私たちはミナミに行った。新しいレストラン兼バー兼本屋を見つけたし、12人以上は入れない、ちっぽけなインド料理のレストランにも入った。アイリッシュバーで黒ビールを飲み、昔のスナックにも顔を出した。

     私の魂は奇妙な自由さと、幸福と、なつかしさで舞い上がった。そして、今回もまた、決して「ミナミに向かう」ことを忘れてはいけない、と心に決めたのであった。

    @DamianFlanagan

    ダミアン・フラナガン

    ダミアン・フラナガン(Damian Flanagan) 1969年英国生まれ。作家・評論家。ケンブリッジ大在学中の89~90年、東京と京都に留学。93~99年に神戸大で研究活動。日本文学の修士課程、博士課程を経て、2000年に博士号取得。現在、兵庫県西宮市とマンチェスターに住まいを持って著作活動している。著書に「世界文学のスーパースター夏目漱石」。

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