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住民救った未明の半鐘連打「一歩間違えば…」消防分団長、いまも自問自答 長野

千曲川の堤防決壊が迫る中、火の見やぐらの半鐘を打ち鳴らした長野市消防団長沼分団長の飯島基弘さん=長野市で2019年10月25日午後3時14分、山下貴史撮影

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 10月13日未明、台風19号の豪雨で千曲川の堤防決壊が差し迫る中、長野市長沼地区にある4カ所の半鐘が鳴り響いた。打ち鳴らしたのは市消防団長沼分団長の飯島基弘さん(47)=同市大町=ら4人。指示をしたのは飯島さんだった。半鐘の音を聞いて避難できた人々がいた。それでも飯島さんは「一歩間違えば、団員も住民も被害に巻き込んだかもしれない」と、自らの行動が良かったのか、自問自答を続けている。

 長沼地区と呼ばれる同市大町、穂保、津野、赤沼には、それぞれの地域に高さ6~8メートルほどの火の見やぐらがあり、半鐘が付いている。老朽化などから今年5月以降、使用禁止になったが、それまでは、火災が起きた地域で半鐘を鳴らして住民に知らせたり、火災予防運動の時には「カーン、カーン」とゆっくりたたいて啓発に生かしたりしてきた。

 しかし、今回は様相が違った。

 住民らでつくる長沼地区の災害対策本部が設置されたのは10月12日午後4時半。地域を回っていた飯島さんも同5時半ごろ合流した。約6キロ下流の立ケ花水位観測所(中野市)の水位はぐんぐん上昇していった。高齢者や障害者などの要配慮者の避難に最優先で取り組むことになり、消防団も車1台を走らせ、避難を呼び掛けた。

 災対本部は立ケ花の水位が6メートルに達した同9時25分に解散した。長沼も氾濫による危険が迫っていた。飯島さんは鶴賀消防署柳原分署(同市柳原)に待機し、千曲川にある国土交通省の定点カメラの映像を見続けた。

 同11時ごろだった。堤防のへりにまで水が来ているように見えた。「一度、現場に行きたい」。消防団の上司に進言し、許可を得た。同11時半ごろ、安全が確保できそうな大町まで近づいた。車は堤防の下にエンジンをかけたままにした。徒歩で堤防に上がった。

 ライトの光の先に見えたのは、勢いよく流れる泥水だった。「今まで見たこともない泥水が堤防のそばまで来ていた」。地区全体が浸水すると思った。

 分署に戻った。13日午前0時、立ケ花の水位は10メートルを超えていた。「完全に越水する」。同20分ごろ団員にメールした。「個人としては避難した方がいいと思う」。同50分ごろ、「午前2時ごろに穂保で決壊の恐れ」という一報が分署に入った。「ただ事じゃない。決壊となると、そこが川になってしまう」

 分署の署長と話し、消防車2台と分団の車1台の計3台で避難指示を呼び掛けた。「これだけでは回り切れない。伝え切れない可能性があった」。どうしたら伝えられるか。

 半鐘を思い出した。「決壊の恐れがある。悪いが、半鐘をたたいてくれないか」。団員に電話したが、穂保の団員は避難していた。自ら穂保に急いだ。

 地元・大町のやぐらは慣れていたが、穂保のやぐらに上るのは初めてだった。穂保は大町と違い傾斜がなく垂直に上る。雨、風。手の滑りが怖かったが落下防止の腰ベルトをつける猶予はなかった。

 8年ぶりにたたいた半鐘。同1時10分ごろから5分間、備え付けの木づちで思い切りたたき続けた。「皆に聞こえるよう、ひたすらに」。右手の力が尽きたら左手に持ち替え、また右手に戻して……。それを繰り返した。

 分署に戻ったが、その後、定点カメラの映像は見られなくなった。一睡もしないまま、朝になり、堤防の決壊を知った。「決壊は想定外だった。毎年、地区で防災訓練をしてきたが、ここまで大きな被害はないと慢心があったかもしれない」

 13日未明、同市穂保のリンゴ農家、落合道雄さん(78)は、トラクターや車を土手の上に避難させていた。半鐘の音が聞こえたのは、まさにその時だった。「これはまずいと思った。逃げたのは午前1時半。ぎりぎりだった」。水が引いた後、自宅に戻ると、前の道路が約2メートル浸水していた跡が残っていた。

 真夜中に半鐘を鳴らしたことが良かったのかどうか。「逃げる時に被害に巻き込まれたり、指示を出した団員がけがをしたりしたかもしれない。もっと早く避難をさせることができたかもしれない」。東日本大震災では半鐘を鳴らしていた消防団員が被害に遭った。最善策は何だったのか――。飯島さんは考え続けている。【山下貴史】

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