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ローマ教皇のメッセージ 「核なき世界」への一歩に

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 米露などの核保有国が「自国第一主義」に走って軍縮に背を向け、軍備増強を進めている。そうした現状に対する強い危機感の表出である。

 来日中のフランシスコ・ローマ教皇が被爆地の長崎と広島を訪れ、「核なき世界」実現への努力を結集するよう国際社会に呼びかけた。

 注目されるのは、核兵器の保有自体への非難である。平和や安定への「最良の答えではない」と断じ、兵器開発を「テロ行為」と形容した。

 被爆地発の教皇メッセージは2度目である。ヨハネ・パウロ2世は1981年に広島で「戦争は人間の仕業」と強調し、核軍縮を訴えた。

 米ソが対立する東西冷戦中だった。このため、核兵器の保有で戦争を抑止する戦略について、バチカンは「軍縮への一歩として、倫理的に受け入れられる」と容認していた。

 今回、フランシスコ教皇は「国際社会の平和、安定とは相いれない」「脅威から私たちを守ることはできない」と核抑止論を否定した。

 訪日は冷戦終結から30年の節目にあたる。だが、核を巡る脅威は増し、世界はより不安定になっている。

 フランシスコ教皇の背中を押しているのは「相互不信によって、軍備管理の国際的な枠組みの解体につながる危険がある」との懸念である。

 トランプ米政権下、ロシアとの中距離核戦力(INF)全廃条約は8月に失効した。朝鮮半島の非核化を目指す米朝協議の行方は見通せず、イラン核合意も崩壊の瀬戸際だ。

 来年は核拡散防止条約(NPT)の発効50年にあたり、再検討会議が開かれる。だが、保有国と、核全廃を目指す非保有国の溝は深い。

 バチカンは2017年の「核兵器禁止条約」採択時、いち早く批准した。今回、教皇は特に禁止条約の名を挙げ、教会が「飽くことなく、迅速に行動していく」と宣言した。

 米国の「核の傘」に入る日本は条約不参加だ。唯一の戦争被爆国として保有国と非保有国の「橋渡し役」を自任するならバチカンと足並みをそろえ、米国に軍縮を迫るべきだ。

 教皇は「核なき世界は可能であり、必要だ」と力説する。だが、待っているだけでは理想は実現しない。

 日本は今こそ、核廃絶の必要性を国際世論に訴え、「核なき世界」の実現に道筋を付ける責務がある。

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