歌人・小説家として活躍する東直子のデビュー歌集『春原さんのリコーダー』と第二歌集『青卵』が、いずれも「ちくま文庫」として出版された。とりわけ刊行から20年余を経た第一歌集を再び手にすることができるのは、東の短歌の真髄に触れる思いがする。俵万智や穂村弘、あるいはニューウェーブを率いた加藤治郎ほど、当時は話題にならなかったが、俵らとは少し異質な穏やかな広がりのある口語短歌の魅力が伝わってくるのがうれしい。
<違うのよ ふゆぞら色のセーターににわかにできる毛玉のような><転居先不明の判を見つめつつ春原さんの吹くリコーダー>。一首にこめられたものは柔らかな言葉の中に手の届かない思いや音をまさぐる心理だろう。収録された当時の「栞文」で小林恭二は、言葉の柔らかさは天性のもの、「一瞬の爆発力よりじわじわ利いてくる」といい、穂村弘は「喪失感と表裏一体の、この比類ない希求」と書き、当初から東短歌の特色を見抜いて…
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