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木村 衣有子・評『四隣人の食卓』ク・ビョンモ/著

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清く正しい生活の果てにどうしても食べたくなる

◆『四隣人の食卓』ク・ビョンモ/著、小山内園子/訳(書肆侃侃房/税別1600円)

 入居10年以内に最低3人子を成す、という条件の下に、郊外の「夢未来実験共同住宅」に入居した4組の夫婦と幼い子供たちが織り成す、韓国の、日常系ディストピア小説である。

 刊行された昨年、韓国では合計特殊出生率がはじめて1.0を割り込んで0.98となったという。正直言って、子供のいない私は、このニュースの前ではうつむいてしまうしかない。この本を手に取ったとき、果たして共感できるところはあるのか、との不安の雲は頭の上に立ち込めていた。けれど、杞憂(きゆう)だった。人の親だとしても、子供と手を繋(つな)いでいないときには誰しもが個々人の地平に立っているのだった、と、気付く。

 最寄りの保育所までの距離を鑑み、住人たちは、代わりばんこに子らの面倒をみる共同保育をはじめる。「早くに出勤する人だからと最低限のビジュアルでも許される作り置きおかずの担当」のひとりが、炒めものをしながら考える。「何かを洗い、ちぎり、切り、お湯を沸かし、という行為そのものが、いかに時間や費用……それよりなにより健全でゆとりのある肉体と精神を必要とするのか」。清く正しい共同生活を営むことと、「健全」…

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