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あしたに、ちゃれんじ

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梅田・堂山町のバー「カラクリLab.」 がんを気軽に話す場を=中川悠 /大阪

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「お酒でもカフェ使いでも、気軽にお越しください」と谷島さん=藤田理代さん撮影 拡大
「お酒でもカフェ使いでも、気軽にお越しください」と谷島さん=藤田理代さん撮影

 「ありがとう。少し気分が楽になったわ」「また、梅田に来たついでに遊びに来るね」。大阪・梅田の堂山町(どうやまちょう)に誕生した小さなBAR。しかも、毎週水曜日と金曜日の夜にしか開いていない、ちょっと不思議なお店。今年10月、「がんサバイバー(がんの闘病者・経験者)」が気軽に足を運べる「カラクリLab.」が開店した。

 一昔前までは、がんは高齢者らがかかる病気であり、一度発症をしてしまったら社会から切り離され「死」に向かっていくものと捉えられていた。しかし、医療が進み、生存率が高まる中で、治療だけでなく、がん罹患(りかん)後の人生をどう生きていくかにも光が当たり始めた。

 「高齢者のがんだけでなく、今は働き盛りの世代が社会的に困っているということにも目が向けられ始めているんです」。このBARを立ち上げたのは、がん経験者だからこそ発信できる取り組みにチャレンジしているプロジェクト「ダカラコソクリエイト」の発起人、谷島(やじま)雄一郎さん(42)。

 若い世代のがん患者は数が少ないため、悩みを共有したり、同じ境遇の仲間を見つけたりするのがかなり難しい。そして、働いていた会社の中での立場が変わってしまう人、子どもを産むことを諦めざるを得ない人、就職することが難しくなってしまう人など、がんになって社会の中での自分自身の価値を見失ってしまう人も多い。

 会社員である谷島さんは、2012年7月、34歳の時に、「消化管間質腫瘍(GIST)」と呼ばれる、発症率が年間に10万人に1~2人くらいとされる希少がんを発症。今も治療を続けている。GISTとは、胃や小腸など消化管の壁にできる転移、再発を起こす悪性腫瘍の一種(肉腫)で、粘膜から発生する胃がんや大腸がんとは異なる性質を示す。「期待していた薬があったんですが、自分のがんに効きにくいことがわかったんです」

 難しい状況に追い込まれる中、彼は考え方を大きく変えていった。これからの未来の人生を「がんになったことも含めて、自分に生まれてきてよかった」と思えるようにしよう、と。今回、梅田にBARをオープンさせたのも、悩みを抱えるがんサバイバーたちがふらりと立ち寄り、何気ない会話の中で悩みを軽くできればという想(おも)いからだった。

 がん患者や家族が集まる場は、病院などで日中に開かれることが多く、働く世代は参加が難しいという。「僕自身は、センシティブな課題だからこそ、カジュアルに伝える場が欲しかったんです。より深刻に話すのではなく、ついでに語れるような空間が」。世代や境遇をつなぐためには、カフェバーのような空間がいい。見つけた小さな物件を、がん経験者や医療者の仲間たちとともにDIYをし、店を完成させた。

 谷島さんが目指すのは、社会における「支える側」「支えられる側」という一方的な考え方ではなく、みんなが「患者らしく」ではなく「自分らしく」生きられるようになる社会。今日も一人、学生時代に白血病を患ったという30代の女性がふらりと店に立ち寄った。何気ない会話。何気ない笑顔。深刻な話は一切せず、彼女は満面の笑みで立ち去った。谷島さんが求めるがんサバイバー同士のカジュアルな関係性は、きっとこういうもの。10人だけが入れる小さなBAR。「カラクリLab.」は今夜も開店する。<次回は1月10日掲載予定>

    ◇

 ◆カラクリLab.

 大阪市北区堂山町16の19 イワタ会館2階。開店は水・金曜(休む場合もあり)。午後7時半~11時。利用についてはホームページ(https://lab.dakarakosocreate.com)の確認を。


 ■人物略歴

中川悠(なかがわ・はるか)さん

 1978年、兵庫県伊丹市生まれ。NPO法人チュラキューブ代表理事。情報誌編集の経験を生かし「編集」の発想で社会課題の解決策を探る「イシューキュレーター」と名乗る。福祉から、農業、漁業、伝統産業の支援など活動の幅を広げている。

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