オピニオン

多様なルーツを持つ人々が共生し、互いを認め合うオープンな社会が平和につながる 教養学部国際学科 准教授
荒木 圭子

2019年12月2日掲出

 「地球最後のフロンティア市場」といわれ、今後、大きな経済成長が見込まれているアフリカ。しかし、その一方で爆発的な人口増加とそれに伴う食糧危機、広がる経済格差など、さまざまな課題を抱えていることも事実。わが国でも外国人や多様なルーツを持つ日本人が増加しつつあるなか、アフリカ系人はもちろん、さまざまな国々や地域の人々と、私たちはどのように交流の輪を広げていけばいいのか。アフリカ人やアフリカ系人の地位向上をめざした運動の研究を専門とする教養学部国際学科の荒木圭子准教授に話を聞いた。【毎日新聞編集委員・中根正義】

 

幼少期のアフリカ人との出会いが研究の原点!?

──今年、南アフリカがラグビーW杯で優勝しましたが、チームの有色人種は95年優勝時の1人から10人超に増え、主将も初めて黒人が務めました。人種差別などまだ根強く残る環境のなか、現地の人々には大きな希望を与えたのではないでしょうか。また、今年のノーベル平和賞はエチオピアのアビー・アハメド首相でした。紛争が絶えないアフリカで、アフリカの政治家が対話によって平和を構築した功績が高く評価されました。南アフリカに限らず、近年のアフリカではさまざまな変化が起きています。

 南アフリカではアパルトヘイト(人種隔離政策)が撤廃されて25年になります。また、ルワンダなど長らく紛争が続いていた国々も落ち着いてきて、2000年代に入ってから新たに国づくりに取りかかるようになったわけですが、非常に裕福な黒人が生まれた一方で、貧困にあえいでいる人々はそのまま変わらないという状況で、格差が広がっているといえます。紛争中は、お金やコネのある人たちは国外に出ていったのが、紛争が終わって帰国して起業するなどダイナミックな動きが見られるようになってきたことも要因の一つだと考えます。ルワンダなども今は強力なリーダーシップを持つ大統領の下で国家再建が進められ、経済的にも潤っていて安定していますが、やはり格差の問題が民族の対立に置き換えられていくと紛争が表面化してくる恐れはあると思います。

 

──先生がアフリカの研究をされるようになったきっかけを教えてください。

 3歳の頃に、大学教員をしていた父の仕事の関係で、家族で9カ月、イギリス・ロンドンに滞在していたのですが、そのときに、ザンビアの女の子と親しくなりました。彼女の父親は国家の要職についていたらしく、国費でロンドンに来ていたというエリート家庭で、タータンチェックのツーピースをいつも着ていて、英語がペラペラで自分の意見もしっかり話していました。私にしてみると、姉以外で初めて憧れた女性で、今から思うと、それが最初のアフリカとの出会いでした。このことがアフリカ研究に関わるようになった原点ではないかと思っています。

 直接的にアフリカについて研究しようと思ったのは、高校生から大学生にかけての頃です。1991年に起きた湾岸戦争をテレビにかじりついて見ていたのですが、その際、CNNの報道を鵜呑みにしていました。しかし次第にそれが偏った報道だと分かったことで、欧米社会への不信感のようなものが生まれました。国際関係にはもともと興味があったこともあり、国際社会を見るときに自分なりの基準がほしいと思っていました。

 その頃、アフリカの音楽をよく聴いていて、そこで、直接的なメッセージが込められた南アフリカのアパルトヘイトに反対する音楽に触発され、アフリカのことを勉強し始めました。その過程で、マーカス・ガーヴィーというジャマイカ人を知りました。彼はアメリカではネガティブな評価をされていたのですが、彼の功績をアフリカから再評価するという論文を読み、欧米中心とは異なる価値観を見出すことができたことがきっかけとなって、もう少しアフリカについて深く研究したいと思い、大学院でその論文を書いた先生の指導を受けたのです。

 

アフリカ系人の地位向上をめざしたガーヴィー運動を研究

──先生の専門分野である「アフリカン・ディアスポラ研究」について教えてください。ディアスポラは、移民や難民、植民などを指す言葉ですね。

 最近のディアスポラたちは、母国に貢献したいという思いを強く持っています。私のところにもブルンジという国から留学生が来ていますが、彼も最終的には国のために働きたいと述べています。

 そもそもアフリカン・ディアスポラは、奴隷貿易で離散させられた人々の子孫を指していたのですが、特にアメリカなどで彼らはルーツをまったく絶ちきられました。しかし、アフリカ的なルーツがあることで、アメリカ国内では差別を受けました。そのため、自尊心を保つためにはルーツを逆にポジティブなものしなくてはいけませんでした。ところが、どこから連れてこられたかも詳細は分からない。そこで、例えばダシキという西アフリカで着る衣装を自分たちの民族的衣装にするといったように、アフリカ全体を自分たちの故郷として見ざるを得ないということがあったのです。

 彼らは直接的なアフリカとのつながりがないということで、アフリカに住んでいる人々や、現代のアフリカからのディアスポラとはやや温度差があります。ガーナなどには、最近アメリカから戻った人々もいたり、リベリアなどは奴隷から解放された人たちがアフリカに戻って建国した国だったりするのですが、現地の人々は彼らのことを「アメリカ人」として見ていて、「我々」とは違うという認識です。これからアフリカはどんどん発展していくでしょうが、その中で、もしかしたらルーツを失ったアフリカ系アメリカ人が取り残されてしまうかもしれないという危惧はあります。

 

──アフリカン・ディアスポラ研究の中で、特に力を入れていることを教えてください。

 先ほど述べたマーカス・ガーヴィーが、第一次世界大戦後に展開した運動について研究しています。ガーヴィー運動は、「パン・アフリカリズム」という、アフリカ系人とアフリカ人をつないで国境の壁を越えてアフリカを発展させようという運動のひとつでした。その中でアフリカ系人とアフリカ人両方の権利を獲得しようとしたのです。運動そのものは短命だったのですが、自立と自尊心を育むという、その理念とメッセージは今も世界のあちこちで受け継がれています。

 彼自身が大西洋のなかでディアスポラのような動きをして、運動が花開いたのがアメリカでした。ちょうど第一次世界大戦後は国際連盟が設立されたときで、彼は黒人たちの要求を国際連盟に嘆願するという運動を行いました。ガーヴィー運動はアメリカからアフリカや中南米、カリブ海にも飛び火して地域のなかで展開されたという流れがあるのですが、私は、国際関係のなかでガーヴィーの運動を捉えてみたいと思っています。そもそも「人種」というものは、国の中で機能するもので、国によってカテゴリーも違うし、その中で国民を区別するときの手段として使われることが多いものです。例えば、南アフリカには黒人と白人の間にカラード(混血グループ)がいるのに対し、アメリカではカラードという考え方はしません。ですが、私は国内ではなく、国際社会における「黒人」という人種的枠組みについて考えていきたいのです。ガーヴィー運動を正面からきちんと評価することで、現在の国際社会の成り立ちの中で、欧米中心ではない流れがあることを明らかにしたいと思っています。

 

五感を使って体験したことは必ず自分の財産になる!

──今年8月に第7回アフリカ開発会議(TICAD)が日本で開催されました。「アフリカとSDGs(持続可能な開発目標)」ということも一つのキーワードになっています。今、日本とアフリカが互いに友好関係を築いていくために重要なことは何でしょうか。

 バスケットボールの八村塁選手やテニスの大阪なおみ選手など、アフリカ系にルーツを持つ日本人選手が世界の舞台で活躍するようになってきました。八村選手を見ても分かりますが、ミックスルーツであることを自分のアイデンティティーとして非常に大事にしていて、自分に続く年下の人たちのロールモデルになろうとしています。

 私たちも、このようなミックスルーツの人々がいることを日常的な風景として捉えられるようになったらいいなと思います。日本人的な外見や日本語を話すといったことにとらわれるのではなく、もっとオープンな社会を目指すべきでしょう。ラグビーW杯の日本代表チームがいい例です。生まれた国も肌の色も違う選手たちが日本代表としてワンチームになって戦い、私たち国民もその姿に感動しましたよね。一方、大学にも留学生がたくさん来ていますが、非常に優秀な学生が多いにもかかわらず、日本で就職することが難しいという現実があります。特に、アフリカ系の人々は、日本で育った人でさえ、肌の色で差別を感じるケースが少なくありません。企業も大学と同じように、もっと積極的に受け入れてほしいと思います。

 SDGsに関しては、アフリカとの関連では、いかに他者に共感できるか、自分に置き換えることができるかということが一番の基本でしょう。平和のために重要なことは、人としての尊厳を認め合うことができるかが重要です。言うのはたやすいですが、実行することはなかなか難しい。国際学科では、このことに実践的に取り組んでいます。例えば、私もルワンダに学生を連れていったことがありますが、ほかにもブラジルの貧民街を訪問する研修などがあり、現地で暮らす人々の様子を実際に知ってもらうようなことも行っています。

 

──最後に、これから大学を目指そうという人にメッセージをお願いします。

 国際学科にはアクティブな学生が非常に多く、いろいろなところに出かけたり、ボランティア活動をしたりと、積極的に活動しています。本学科は、自分の足で何かを感じ取り、つかむということを強く推進している学科です。本を読むことももちろん大事ですが、自分で五感を使って体験したことによって得られることは、その後の大きな財産になります。それだけに、学生時代にできるだけ多くの体験を積んでほしいと思っています。その意味でも、国際学科では近年、世界各国の留学生だけでなく、ミックスルーツを持つ学生も増えており、いながらにして国際感覚を磨くことができるのではないでしょうか。もっと世界に目を向けてみたいと思う人は、ぜひ国際学科を目指してほしいと思います。

教養学部国際学科 准教授 荒木 圭子 (あらき けいこ)

2005年9月より教養学部国際学科非常勤講師、2008年4月に専任講師として着任。専門はアフリカン・ディアスポラ研究。第一次世界大戦後のアメリカを拠点に世界各地へ波及した脱国家的・超国家的な黒人解放運動について研究している。これまで、主にアメリカや南アフリカで調査を行ってきた。授業ではアクティヴ・ラーニングを積極的に取り入れている。