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教育改革シンポジウム

毎日大学フォーラム in九州 これからの高等教育のあり方を考える 早大・田中総長、関学大・村田学長らが講演

活発な議論が交わされた第30回毎日大学フォーラムのパネルディスカッション

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文理横断型の教育、生涯学習の環境整備が重要に

 第30回毎日大学フォーラム(毎日新聞社主催、文部科学省後援)が10月24日、福岡市博多区のホテルであり、「これからの高等教育のあり方を考える」をテーマに大学関係者らが参加した。基調講演では、村田治・関西学院大学長が「“Kwansei Grand Challenge 2039”と学生の質の保証」、田中愛治・早稲田大総長が「日本の大学の国際化と地域振興への貢献とは両立するのか」、文部科学省の玉上晃・大臣官房審議官が「大学改革の現状について」を題に、それぞれが最前線で取り組む変革の現状を紹介。パネルディスカッションでは基調講演の3人にコーディネーターとして毎日新聞教育事業室の中根正義・編集委員が加わり、グローバル化や少子化における九州・山口の大学の魅力などについて意見を交え、出席者からも大学が抱える課題などについて質問が相次いだ。【構成・吉川雄策、写真・徳野仁子】

    関西学院大の村田治学長

    AI活用の人材を育成 “Kwansei Grand Challenge 2039”と学生の質の保証 関西学院大学長 村田治氏

     関西学院大では、未来予測に基づく超長期ビジョン「“Kwansei Grand Challenge 2039”」に取り組んでいます。策定の背景にはグローバル化や、欧州で労働力が域内を自由に動くための合意「ボローニャ・プロセス」に基づき、1990年代後半に30の鍵となる能力や資質を抽出・明確化した「チューニング」を進めたことなどがあります。

     日本でも18歳人口が減りつつ進学率が上昇。大学進学率は50%を超え、「マス(大衆化)からユニバーサル(普遍化)の段階」に入りました。大学教育の目的が知識・技能の提供から、幅広い新たな経験の提供に大きく変わるとされています。そのため関学では「生涯にわたって学び続ける力」や「対立する価値を調整する力」など全学生に涵養(かんよう)すべき10のコンピテンシー(能力・資質)を掲げ、将来構想に取り組んでいます。同質の人を育てるより、自分の強みを身に付ける学生を育てる必要があります。

     今後、知識集約型社会となり、AI(人工知能)が発達する中、必要とされるのはイノベーションを起こす人材の育成です。そのため関学では、日本IBMと「AI活用人材育成プログラム」を共同開発しています。

     世界の先進国で恐らく日本だけが大学教育を文系と理系に分けています。これが日本の高等教育をダメにしている原因の一つです。高校1年生段階ではOECD(経済協力開発機構)諸国で日本は数学と科学がトップですが、労働生産性は20位です。それはなぜでしょうか。日本では遅くとも高校3年生から理系と文系に分かれ、8割が文系に行くために理系人材が育たないことで、生産性を下げています。IT(情報技術)革命の際も、日本は欧米と異なり、パッケージ化されたITに人や組織を合わせず、既存組織と人材にITを合わせてしまったため、労働生産性が上がりませんでした。これは極めて重要な課題です。

     そのため必要なのは、営業現場などでAIがわかる人材です。プログラムの共同開発は、特に社会科学系、人文科学系の学生がきちんと理解できる教育をすることが目的です。AIを活用する際に、同時に人や組織が変わらなければ、日本は経済活性化の最後のチャンスを失います。関学は、今後も未来予測に基づき、チャレンジを進めていきます。

    早稲田大の田中愛治総長

    海外で学び視野広げて 日本の大学の国際化と地域振興への貢献とは両立するのか 早稲田大総長 田中愛治氏

     日本の競争力は低下・衰退し、研究力も世界と比べ低下しています。世界の上位10%の研究論文を比べると、日米は停滞する一方、中国は1990年代と比べ倍以上に伸び、英独仏は米国を抜きました。この中でどう考えるかが大切です。

     私は、世界に貢献する人材を育成するならば、世界で認められるような研究や教育をする必要があると考え、「世界で輝くWASEDA」を掲げました。これは建学の精神である研究・教育・貢献の三大教旨(きょうし)に、「たくましい知性」と「しなやかな感性」の二つの教育の柱を加え、価値観の共有を重視するものです。たくましい知性は、答えのない問題に挑戦する力。しなやかな感性は、異なる性別や国籍、宗教、価値観などを持つ人々に敬意を持って接し、理解することです。

     なぜこの柱が必要なのでしょうか。日本では答えがある問題を解くことに熱心に教育をしてきました。これは第二次大戦敗戦後、米国をモデルに追いつくためでした。そのため常に問題に答えがありました。しかし、80年代半ばに米国に追いつき、バブル経済も崩壊。世界でも地球温暖化やポピュリズムの広がりなど、すぐに答えが出ない問題に直面しています。

     育成すべきは、時間がかかっても自分なりの解決策を仮説として提示できて、その仮説を根拠を持って検証できる人材です。しかし、単に自分の頭で新しい解決策を考えたとしても、世界を知らなければ視野の狭いものとなります。他の人々が物事をどう考えるのか学んでおかなければ、説得力を持たない時代になってきています。

     では大学としてどうレベルを上げ、国際貢献できる人材を育成するか。早稲田では学部の垣根を取り払い、基盤教育、教養教育、言語教育、人間的力量の育成に取り組んでいます。特に基盤教育では日本語で論理的に文章を書くことをeラーニングで教え、数学的思考と統計学的思考、情報科学の基礎も教えています。データ科学は方法論の一つで、文系を含め専門家とのコラボレーションが不可欠だからです。また、権限や権威、地位がなくてもリーダーシップを発揮するための教育にも注力しています。将来は学生の5人に1人は留学生となり、日本育ちの全学生は1度は海外で学ぶようにしたい。世界の人がどうものを考えるかを知る「グローバルリーダー」を育てるのが早稲田の使命だと思っています。

    文部科学省の玉上晃・大臣官房審議官

    学修成果の可視化必要 大学改革の現状について 文部科学省・大臣官房審議官 玉上晃氏

     文部科学省の仕事の一つは、18歳人口への対応です。1960年代には約250万人おり、私立大学も増える中で、その方々が戦後復興を支えました。ところが今後は子どもの数が減り、その中で国際的に名誉ある地位を占め続けるためには、教え方を工夫し、大学教育の質の保証をすることが必要です。また、一生学び続けられる環境をいかに作るかも大学人に課せられた使命です。

     中央教育審議会では昨年、2040年に向けた「高等教育のグランドデザイン」を答申しました。この年は18年に生まれた子どもが大学を卒業する年です。世の中は知識社会に転換し、さらにグローバル化も進むでしょう。そのためには、質の保証など学修成果の可視化が必要です。大学は主体的な学びである「アクティブラーニング」をうまく取り入れるなど、教育の質を保証する根拠を可視化し、情報公開することで、意思決定の判断材料にもなり、学生支援のきっかけにもなります。学生にとっても、何を学ぶべきかを明確化できます。

     今春には、低所得世帯を対象に大学や短期大学などの高等教育を無償化する法案が成立しました。この制度により進学率に変化が出れば、18歳人口の動向も変わります。在学生にも適用されるので、広く周知していきたいと考えています。

     高等教育のグランドデザインでは、国公私立を通じた大学などの連携・統合を図るため「地域連携プラットフォーム(仮称)」の構築や「大学等連携推進法人(同)」制度も提示されています。この中では、地域ごとに大学の枠組みを超えて連携・統合することなどが検討されています。大学は地域の高校からの収容力を考えますが、卒業後は地域から出てしまうことも課題です。こうした問題に対応するには、地域の産業構造や自治体の考えなどを取り入れる必要がありますが、一つの学校がすべてを行うのは無理です。大学事務のあり方や留学生教育といった具体的な連携内容などについて議論を進めているところです。

     また地方創生では、最近は各地域の特性を考えた取り組みが各大学でなされています。そのような取り組みを促進するための予算も現在、概算要求していますので、活用をご検討ください。

    活発な議論が交わされた第30回毎日大学フォーラムのパネルディスカッション

    パネルディスカッション

    学生を地元へ産学連携必然/「教職協働」求められる深化

     中根 大学のグローバル化を考えた時、九州・山口地区はアジアに近く地理的魅力を感じます。

     玉上 福岡から見れば東京と上海はほぼ等距離です。2018年まで、九州大で事務局長を務めましたが、関西から来る学生と中国から来る学生は、ほぼ同数でした。その観点で見れば、東京や北海道と比べ利点があります。

     中根 18歳人口は急減期を迎え、予想以上のペースで少子化が進んでいます。人口減の中で収容定員を放置すれば、大学の学力平均値は下がります。学生の質をどう保証すればいいでしょうか。

     村田 収容人員を含め、学生の質を担保するために大学全体のマネジメントが大切になってくるのではないでしょうか。特に私立大では職員の能力が、大学の今後のすう勢を決めることになると思っています。また、時代に合わせた大学改革も大切です。関学ではデジタル技術の革新を経済成長や社会課題の解決につなげる「Society(ソサエティー)5・0」への対応も踏まえ、神戸三田キャンパスの再編を21年度に始めることにしています。現在の理工学部と総合政策学部の2学部から、新設する理、工、生命環境、建築――の4学部と総合政策学部の計5学部とし、これからの時代に求められる文理横断型の教育・研究を進めていくことを構想しています。

     田中 18歳人口以外の学生を増やすことで教育の質を下げないことが重要です。一つはあらゆる世代が学ぶ生涯教育です。「お客様」扱いをせず、欧米の大学のように、ついて来られない人には単位を与えないことで質を確保することが重要です。もう一つは、留学生の受け入れです。早稲田では日本語未履修の学生も受け入れています。英語と日本語の両方で授業を準備する負担はありますが、教員を国際公募して英語の授業だけで単位を取得し、卒業できる学部や大学院を増やしています。

     村田 今後はリカレント(就労に生かす学び直し)教育も重要になるのは間違いありませんが、まだ言われるほど進んでいません。今後のリカレント教育で重要なのは、大学院ではないでしょうか。欧米では企業のエグゼクティブ(管理職)の約6割が修士号取得者ですが、日本ではほとんどが学士号です。その差が日本の生産性を低くしていると言っても過言ではないでしょう。

     田中 日本の企業で理工系の博士号を持つ人は海外企業に比べて少なく、これが産業力低下につながっていると思います。文系学部でも論理的に物事を考えることを教えていますが、企業はそれに気付いておらず、大学教育を信用していない実態があります。この実態を変えない限り、文系大学院の定員を増やしても、就職浪人があふれ出るだけです。

     玉上 文系の専門職大学院では、学部を出たばかりの学生と社会人として入学した学生の2種類の集団がいます。社会人の学生は実務的なことより、そもそも「売る」ことの意味や本質、国際的な動向などを学びたいとの需要があると思います。それを学校が的確にくみ取ることが重要です。

     中根 情報通信革命がすごい勢いで進む中、自ら学び、課題解決能力を持つ学生の育成が急務です。また経済系学部でも、ビッグデータなどデータ科学の素養が求められています。そのためには数学の基本的理解が必要ですが、入試で数学を必須にすると、志願者の減少も予想されます。

     田中 早稲田の政治経済学部の経済学科と国際政治経済学科では統計学と数学が必修で、政治学科も今春から統計学を必修にしました。最低でも数Ⅰを理解しないと授業についていけなくなっています。これらは社会に出ても必要です。高校にも、そうした人材が必要だとのメッセージを出しています。

     村田 関学も経済学部の約6割の学生が数学を履修しています。入試で数学を必修としても、志願者が減るとは思いません。将来を見通している高校の先生であれば、「当然だ」と思うでしょう。

     玉上 高校でも「情報」が必修科目となり、それが大学教育に接続する時に、大学がどのような受け入れ態勢で科目を作るのか注目しています。就職時に企業が科目を設けるとすれば、学生も受講したいと思うはずです。

     中根 会場の皆さんから質問をお願いします。

     西南学院・高良研一事務局長 今後の大学運営では「教職協働」が重要だと思います。早稲田や関学ではどう実践していますか。

     田中 早稲田では教職協働をかなり前から進めています。例えば実践型の産学官連携ワークショップです。企業や自治体から与えられた課題の解決策を企業社員や自治体職員の監修のもと学生チームが提案していますが、これは職員が企画・運営をしています。提案後には企業や自治体から「社員が思いつかないような学生視点の若い感性で提案してくれた」との評価を得ています。

     村田 関学では長期ビジョンや中期総合経営計画策定のため、学内議論を進めてきました。これまで会議を200回以上開き、延べ390人の教職員が関わりました。研修で若手職員が出したアイデアを吸い上げ、実行に移すことも進めています。若手職員をいかに育て、その際に教員と職員がどう連携するかが極めて重要です。意思決定に職員がどれだけ関われるかも大きな課題です。

     熊本学園・目黒純一理事長 村田先生と田中先生が九州・山口で総長や学長ならば、どのように地方の大学を育てようと思いますか。

     村田 地元企業との産学連携をどう進めるかを考えたいと思います。学生を地元に残すには、就職できる産業基盤の存在が重要です。大学と地元企業が連携し、学生にとって魅力のある地域にしていくことが大事ではないでしょうか。

     田中 地元との連携が必要です。地域振興を担う大学は国公私立問わずありますが、それぞれに役割があり、特色ある教育の提供が大切です。単なる偏差値ではなく、「こう教えると、社会に出た時に学生が評価される」といった効果的な教育を地元の協力の下で展開することではないでしょうか。

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