11月は日本を離れ、ヨーロッパ各地で過ごしている。まずはモスクワ。初めての海外渡航がロシアであった私にとってさまざまな想(おも)いを喚起させられる場所である。
25歳の時に訪れたモスクワは空港がとても暗く、長らくの不況が続き、節電しているのだと気付いたのはしばらくしてからのことだった。当時はサンクトペテルブルク国際映画祭から「かたつもり」の上映依頼を受けて、渡露した。会場では観客席の一番後ろに立って、作品を見続けた。大きく映し出される養母の顔。いつもの見慣れた、けれどロシアの人にとっては名も無い日本のおばあちゃんの顔をじっと見つめてくれている。
わたしはこの時、映画って海を越えて想いを共有できると感じていた。そしてそこに「物語」を伴えばなおさら、世界中の人々とのそれが可能になる。こうして25歳の春、白夜の頃に訪れたサンクトペテルブルクの街はわたしの劇映画への創作意欲を搔(か)き立てた。25年の月日が流れ、当時とはすっかり変わったロシアの風景を垣間見ながら、あれから創り上げた河瀬直美の代表作6本の上映が行われている会場を訪れる。熱心に聴き…
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