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ペットがいる被災家族の苦悩 避難所を断念、全壊認定家屋2階で暮らす

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善財幸雄さんが飼っているミナミは、気持ちよさそうにひなたぼっこをしていた=長野市豊野町豊野で2019年11月17日午前11時43分、坂根真理撮影

 台風19号で浸水被害を受けた長野市豊野地区では、自宅に取り残された人々に加えて多くのペットが救われた。だがその後、ペットがいるため避難所に入るのを断念し、浸水した自宅2階での生活を余儀なくされている在宅避難者も少なくない。苦境の飼い主を癒やし続けている小さな命をどう守ればいいのか、模索が続く。【坂根真理、竹内紀臣】

 「それこそ毎日鳴きっぱなしになったら(他の避難者に)迷惑をかけてしまうから」

 同地区で農業を営む善財(ぜんざい)幸雄さん(75)は、妻の三枝子さん(72)と飼い猫のミナミ(11歳)と暮らす。自宅は床上2・4メートルまで浸水して全壊認定された。

 いつもと違う場所だと怖がり、夜通し鳴き続けてしまうミナミを連れて避難所に入ることははばかられたため、早々に断念した。一時的に誰かに預けることも気兼ねしてできない。ミナミが安心できる場所は、暮らし慣れたこの家しかない。

 被災後、ミナミは善財さんの布団の横で安心したように眠るようになった。「怖い思いをしたんだろう。しばらくは自宅で避難します」と話す善財さん。「大事な家族。家の中に泥が入ってきたけど、いつもと変わらずミナミが家にいることに救われている。生き物がいるといいよね」と愛猫をいとおしむ。

抱っこが嫌いなミナミ。善財幸雄さんの腕から逃げようと必死になっていた=長野市豊野町豊野で2019年11月17日午前11時43分、坂根真理撮影

 自宅近くを流れる浅川が氾濫した10月13日朝、善財さんはビニールハウスでいつもと同様に農作業に打ち込んでいた。午前6時ごろ、防災無線で決壊を知った。急いで自宅に戻ろうとしたが道は既に冠水。三枝子さんやミナミを案じながらJR豊野駅に避難した。

 駅近くの倉庫に、1983年の水害を機に備えられたボートがあることを居合わせた人に教えてもらい、そのボートで救助に向かった。オールはなかったが、偶然流れてきた雪かき用のスコップで操り、住宅に取り残された人々を拾った。

 「無事でいてくれ」。そう願いながらたどり着いた自宅で、三枝子さんはミナミを洗濯ネットに入れ、さらに風呂敷に包んで首から下げていた。2階のベランダから救助。その時のことは脳裏に焼き付いて離れない。

佐藤芳枝さん(左)はラブラドルレトリバーの太郎を以前は屋内で飼っていたが、今は物置で生活させているため、朝夕は車でリンゴ畑や山に連れて行き、自由に遊ばせている=長野市で2019年11月13日午後4時56分、竹内紀臣撮影

 佐藤芳枝さん(69)はラブラドルレトリバーの太郎(1歳)とともに夫や善財さんに救助され、ミナミや三枝子さんとボートに乗り込んだ一人だ。

 2階へ続く階段の残り3段まで水位が上がってきたタイミングでのぎりぎりの救助だった。佐藤さんは「犬と貴重品と避難しようとしたが、短時間で自宅前が冠水してできなかった」と振り返る。

 佐藤さんもまた、太郎と避難所に入ることは早々に断念した。被災後太郎がほえ続けるようになったのだ。物置小屋の柱にくくり付けると興奮状態で柱をかじり土を掘るようになった。ストレスをため込んでいる姿を見かねて、毎日早朝と夕方に夫が所有するリンゴ畑に連れて行き、走り回らせてストレスを発散させている。

佐藤芳枝さん(左)に「お散歩に行くよ!」と声を掛けられ軽トラックの荷台に飛び乗るラブラドルレトリバーの太郎=長野市で2019年11月13日午後4時28分、竹内紀臣撮影

 「狭い小屋でかわいそうだが、ここにいるしかない」と嘆く。

 長野市保健所は、被災者の健康状態をチェックしようと保健師らが豊野地区などの被災世帯を巡回したところ、持病や障害があるなど今後も支援が必要と判断した「要フォロー者」は1000人を超える。その中には、ペットを飼う在宅避難者も多くいたという。

 市は「避難所の他者に遠慮して自宅で過ごす人が多いのは把握している。飼育している方々が、無理した避難生活を送って体を壊すことが一番心配」と話し、ペットの一時預かり制度の周知や利用を呼び掛けている。

環境省は「同行避難」を推奨、運用は自治体任せ

 東日本大震災でペットが自宅に取り残されるなどの問題が表面化し、環境省は飼い主がペットを連れて逃げる「同行避難」を推奨するガイドラインを策定した。災害時も被災者がペットを適切に飼育できるための支援内容を紹介しているが、運用は自治体任せだ。

 今も約600人が避難生活を送る長野市は、ペットとの同行避難を受け入れるかどうかは各避難所で対応が分かれた。北部スポーツ・レクリエーションパークは最大3匹ほどを受け入れたが、鳴き声や臭いなどでトラブルが起こりかねないとして、11月7日に動物用のコンテナを設置した。だが、利用は1日に1匹と低調にとどまる。

 須坂市は、10日までに開設されていた避難所3カ所のうち1カ所で、ペット同伴の避難者が複数集まったこともあって、避難所にあった会議室をペット用に確保した。逆に、別の避難所では、ペットを受け入れてはいたが、他の被災者に遠慮をして車中泊を選んだ被災者がいたという。

 熊本地震の時も多くの飼い主が同行避難を選択せずに車中泊や自宅避難を選び、体調を崩して問題になった。長野市保健所は、家の片付けやリフォームといった「生活を立て直す」期間だけでもペットを預けられるよう、一時預かりの利用を呼び掛ける。預けたいという被災者と、受け入れるボランティアを仲介しているが、2日時点での利用は犬1匹、猫11匹にとどまる。

 担当者は「保健所の中にあるおりの中でずっと過ごすはめになると誤解している人が多いのも要因。ボランティアの家庭に預けられ、散歩にも行ってくれる。ぜひ利用してもらいたい」と話す。【坂根真理、ガン・クリスティーナ】

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