毎日新聞
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各国の貿易のもめごとを裁き、一方的な高関税発動などの保護主義政策を防いできた世界貿易機関(WTO)の機能が停止した。
最高裁にあたる上級委員会の委員(定員7人)が1人だけに減ってしまい、審理に最低限必要な3人を下回った。1995年のWTO発足以来、初の異常事態である。保護主義的なトランプ米政権が委員選出を拒み続けたためだ。
心配されるのは、保護主義が世界にはびこる引き金となることだ。
WTOの目標は、多くの国が関税を下げて貿易を活発にし、世界経済を発展させることだ。こうした自由貿易体制に必要なルールを定め、違反した国に是正を求めてきた。要の役割を果たしたのが、法的拘束力を持つ上級委員会の判断である。
それが止まってしまったため、米国以外も自国の利益を優先して高関税の応酬を繰り広げる恐れがある。国際協調を前提とした自由貿易体制を根底から揺るがすことになる。
トランプ政権の対応の根底にあるのはWTOへの不満だ。
米国は中国に多額の貿易赤字を抱えている。トランプ大統領は、中国が不当に安い製品を米国に大量輸出しているのに、WTOは不公平を放置していると批判してきた。
「米国第一」を振りかざすトランプ氏はWTOを軽視し、離脱も辞さない発言を繰り返してきた。今回もWTOの弱体化が狙いだろう。
WTOにも問題はある。中国政府は企業に過剰な補助金を支給し輸出競争力を不当に強めていると批判されるが、WTOの対応は不十分だ。
ただ、だからといって米国が協調を損なうのは筋が通らない。
米国は超大国として国際秩序を安定させる責任がある。自国の主張だけを押し通せば混乱を招くだけだ。
自由貿易をけん引し、最も利益を得てきたのは米国である。WTOに不満があるのなら、米国がリードして組織や運営を改革すべきだ。
貿易立国の日本にとっても重要な問題である。ルールに基づくWTOの判断がなければ、米国のような大国が有利になってしまう。
同様の立場の欧州と連携し、米国を説得する必要がある。同時に中国の補助金問題に対応したルール整備などのWTO改革も促すべきだ。
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