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相模原事件を考える~公判を前に

被告と面会した牧師の奥田さん いま伝えるべき言葉とは

インタビューに答える奥田知志・NPO法人「抱樸」理事長=東京都新宿区で2019年12月2日、根岸基弘撮影

 相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で2016年、入所者19人を殺害し、26人を負傷させたとして、殺人罪などに問われた元同園職員、植松聖被告(29)と拘置施設で接見した牧師がいる。北九州市で長年、路上生活者を支援しているNPO「抱樸(ほうぼく)」理事長の奥田知志さん(56)だ。相模原事件の意味を考え続けている奥田さんに話を聞いた。【東京社会部・銭場裕司】

 ――昨年夏に被告と接見した時はどんな印象を持ちましたか。

 奥田さん 礼儀正しくて、ニュースで見た護送当時の印象とまったく違いました。面会前に手紙を書いて自分の本を送りましたが、彼は手紙をちゃんと読んでいて「きょうは遠いところから来ていただきありがとうございました。本はまだちゃんと読めていませんけど、今後読ませていただきます」と。まあ、実に当たり前の礼儀正しいあいさつでした。だからこそ、この人はやっぱり確信犯なんだなと感じました。追い詰められた若者が爆発するように何かをぶつけたんじゃなくて、身勝手な内容でも彼の中で確信や整合性があってやったんだと思いました。自分が正しいことをしていると確信して事件を起こしたんでしょう。

 ――受け答えで印象に残ったのは。

 奥田さん 彼は食事、移動、排せつができなくなったら人間じゃない、と言いました。それができなくなったら生きていても仕方がない、というような教育が必要だとも言いました。障害者を殺害した理由を「生きる意味のない命だ」と語っていますね。僕は大学でナチズムと戦った牧師の研究をしましたが、「生きる意味のない命」という言葉は1930年代後半にナチスが障害者を殺害した時とほぼ同じです。だから、最初はかつてのヒトラーやナチに傾倒する若者が日本にも現れたのかと思いました。でも、彼が刑務所に入った後に出した手記などをみると、園にいる障害者を殺したらいいと職員に伝えた時に「ヒトラーと同じだ」と言われ、ヒトラーがユダヤ人だけでなく障害者も殺害していたことを初めて知った、と書いてある。つまり、なにかにかぶれたわけでも、外国からの輸入でもない、日本生まれのナチズムなんですよ。戦後70年の中で培われて至ったものがナチズムだった。そのことはショックでした。

 ――植松被告を生んだのはどんな社会なんでしょうか。

 奥田さん LGBTは子供をなさないから生産性がないと、自民党の杉田水脈議員が雑誌に書きました。問題が指摘されて雑誌は事実上の廃刊になりましたが、杉田氏は議員を続けています。それは発言を支持して、生産性の低いやつは存在しちゃいかんっていう社会の空気のようなものがあるからです。僕は植松君が「生きる意味がない命」って言ったのは、時代のことばなんじゃないかと思いました。彼だけが言っていることじゃなくて、時代に貫かれた価値観のようなものがある。

 面会時に、ようするに役に立たない人間は死ねと言いたいのか、という質問を投げかけると「生かしておく余裕はこの国にない」というような意味のことを答えました。最後の質問で、君はあの事件の直前、役に立つ人間だったのか、と問いかけると、彼はちょっと考えて「あまり役に立たない人間だった」と返してきたんですよ。事件では、彼が生きていい命とだめな命の分断線を引いたように言われるけど、彼は一歩間違えば意味のない命になる分断線の上を綱渡りのように歩いてきた若者なんじゃないでしょうか。生産性があるかないか、自分がどう見られているか、それにおびえてきたんじゃないか。

 ――わたしも植松被告と11月に接見しました。仕事をしていない時期の自分をどう思っていたか尋ねると、「役に立つ人間になりたいと思っていた」と答えたのが印象に残っています。

 奥田さん やっぱりそこだと思います。いろんなものが崩壊した平成の30年間に固まったものがあります。自己責任社会です。「迷惑は悪だ」という道徳を生み出しました。今年6月に農林水産省の元事務次官が息子を殺す事件が起きました。隣の学校で運動会をやっていて、息子がうるさいと騒ぎ出した。お父さんは、その4日前に起きた川崎の通り魔事件をみて、息子が包丁を持って学校に行ってしまったらと怖くなった。新聞に載った事件の動機は「他人に迷惑をかけてはいけないと思い、息子を刺した」とあります。人に迷惑をかけるぐらいなら親が責任を取って息子を殺す時代なんです。自己責任論が徹底され、人に迷惑をかけてはいけない、自分で自分のことができないやつは死ね、というようなことになった。これは植松君の言っていることと同じですよ。相模原事件はそういう観点でとらえなおさないと、1人の異常な若者が人を殺しただけでは収まらないです。

 僕は最近、若者向けの講演をすると「みなさんが植松君に会ったらなんて言いますか」という宿題を出しています。彼はものすごい勝手な理由で人を殺した。殺された人たちは許せないし、家族はもっと許せない。19人も殺したおまえに生きる資格はない、と言いたくなる。けれども、そう言って殺したら、彼と同じということになるんですよ。この矛盾を僕らは問わ…

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