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毎日新聞

月1回、一緒にバレーボールを楽しむ益子直美さん(左)と斎藤真由美さん=2019年11月27日午後0時24分、山本浩資撮影

Together

「監督が怒ってはいけない」バレーボール大会 元日本代表・益子直美の願い

 「監督は絶対に怒らないでください」。スポーツ界で指導者の暴力やパワハラが問題になる中、元バレーボール女子日本代表でタレントの益子直美さん(53)が「指導者は怒ってはいけない」をルールにした小学生大会を企画した。「引退するまでバレーがずっと嫌いでした」。現役時代の苦い経験をきっかけに、福岡と神奈川で大会を開催している。なぜ、嫌いだったのか。【山本浩資】

 「25年もプレーしていなかったので体が動かない。この前は顔面でレシーブしちゃって」。益子さんは初めて自分で買ったというバレーボールを手に苦笑いした。「マコさんの弟子のマッチョです」と話す斎藤真由美さん(48)は元日本代表のチームメートで、益子さんの顔にボールをアタックした張本人。「ハエが止まるような緩いボールでした」と2人は口をそろえて笑う。今年になって友人らで誘い合い、東京都内の体育館で月1回、バレーの練習をするようになった。

 1980年代、女子バレーボール界のアイドル的存在だった。「益子派か斎藤派か」。人気を二分し話題になったことも。益子さんは「下町のマコちゃん」、斎藤さんは「マッチョ」の愛称で親しまれ、2人は89年度の日本リーグでイトーヨーカドーを初優勝に導いた。日本代表でも一緒に世界と戦ったが、厳しい指導を受けて育った。

 「中学生のころから怒られた記憶しかありません。ぶたれたこともあります。休みもほとんどなく、それが当たり前と思っていました」と益子さん。斎藤さんも「たたかれることや、実力があっても試合に出られないことに納得できず、高校を中退して実業団に入りました」と振り返る。

 益子さんは25歳で現役引退後、タレントに転身した。バレーのリポーターを引き受けたこともあったが、ストレスで片頭痛になるなどバレーに関わることは本意でなかった。ではなぜ、大会を主催するようになったのか。

福岡県宗像市で開かれた「益子直美カップ小学生バレーボール大会。子どもたちも笑顔=2018年1月、所属事務所提供

 「友人に頼まれてゲイのバレーボール大会を新宿で主催しました。ネットの高さは男子と同じで真剣そのもの。LGBTなど性的少数者が今ほど理解されておらず、その人たちの個性をサポートしたいという思いから10年続けました」

 バレーを楽しむ人たちの姿を見るうちに、自らの苦い経験を今の子どもたちに味わってほしくないと思うようになった。ゲイの大会を終えたころ、知人を通じて小学生大会の開催依頼があり、2015年から福岡県宗像市で「益子直美カップ小学生バレーボール大会」を企画。「怒ってはいけない」というルールが生まれた。益子さんが解説する。

 「子どもたちには、監督やコーチが怒鳴ったり、怒ったりしたら、私のところに報告に来てねと伝えています。子どもが報告に来たら、指導者を私が注意するのです」

 ペナルティーはないものの、注意されてふてくされる大人もいるという。来年1月で6回目を迎え、福岡以外にも山口、佐賀、長崎、大分、熊本、鹿児島から参加。男女合わせて約600人の小学生が参加する大会になった。17年からは益子さんが住む神奈川県藤沢市でも開催している。

 「子どもたちは怒られないとわかっているので、伸び伸びプレーします。でも、指導者からは『怒らないならどう指導すればいいのか』を問われました」

 その疑問に答えようと、益子さんはスポーツメンタルコーチの資格を取るために勉強を始めた。「昭和の時代を生きた人たちは怒る指導しか知らなかった。もし褒められていたら、私のバレー人生は変わっていたかもしれません」。そう気づいた。

大会に参加した子どもたちとゲームをして交流する益子直美さん(右)=福岡県宗像市で2018年1月、所属事務所提供

 2年前、息切れが激しくなり、不整脈の一種である心房細動と診断され、手術した。そのことを知って駆けつけたのが斎藤さん。約20年ぶりに再会した斎藤さんは「マコさんの活動を応援したい。一緒にバレー教室ができたらいいね」とサポートを約束し、一緒にバレーを楽しむようになった。今は現役時代のような悲壮感はない。

 一方で、子どもが被害を受けるニュースに胸を痛める。先月、大分県の小学校女子バレーボールチームで、50代の男性監督が練習中に女子児童に平手打ちや蹴るなどの体罰をしていたことが明らかになった。

 益子さんは「子どもの未来を考える指導をしてほしい。一度受けた暴力のトラウマはなかなか消えない。東京五輪を見て、バレーを始める子どももいると思います。ビクビク萎縮することなく、チャレンジしてプレーできる環境が大切」と話す。「怒ってはいけない大会」が全国に広がることを願う。

山本浩資

毎日新聞東京本社運動部副部長。1975年、京都市生まれ。99年入社。横浜支局、東京社会部、サンデー毎日を経て、出向先のBS11で報道番組のキャスターを経験。社会部時代にサッカー・ワールドカップブラジル大会やリオデジャネイロ五輪を現地取材した。中学はラグビー部で控えのSO、高校は硬式野球部主将。著書「PTA、やらなきゃダメですか?」(小学館新書)はリアルなPTA会長体験記。