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相模原事件を考える~公判を前に

国の再発防止検討チームに参加 松本医師が考える事件と精神科医療

インタビューに答える松本俊彦さん=東京都小平市で2019年11月25日午前10時50分、清水健二撮影

 相模原市の障害者施設殺傷事件は、殺人罪などで起訴された植松聖被告(29)に薬物使用歴や精神障害による措置入院歴があったことで、精神科医療のあり方にも焦点が当たった。精神科医として薬物依存治療に長年携わり、厚生労働省が事件後に設けた検証と再発防止の検討チームにも名を連ねた国立精神・神経医療研究センター部長の松本俊彦さん(52)に話を聞いた。【くらし医療部・清水健二】

――植松被告は事件5カ月前、大麻精神病などの診断で強制入院の措置が取られていました。逮捕後の尿鑑定でも大麻使用の陽性反応が出ています。事件と薬物使用の関係をどう見ますか?

松本さん 彼が何らかの精神障害だとしても、薬物の後遺症や薬物使用に関連する精神障害ではないと思います。いろいろな情報から推測すると、依存症でもなく、大麻使用者、つまり愛好家みたいな感じでしょうか。事件に対する大麻の影響はないか、あってもさほど大きくない気はします。

――措置入院のきっかけは、被告が衆院議長宛てに犯行予告とも読める手紙を出そうとしたことでした。事件直後は「どうして措置入院ではなく、刑事事件として扱わなかったのか」という声も上がりました。

松本さん 僕は薬物依存を専門としているので、あの時のそうした世論、行政関係者の一部からも「大麻の使用罪を設けるべきだ」という声が出たことに危惧を覚えました。国際的に見ると、少量の所持や使用は罰せずに支援につなげるという「薬物の非犯罪化」の流れがあり、ただでさえ厳罰主義で知られる日本がさらに厳罰化に傾くことは、世界のすう勢から大きく外れることになるからです。

――事件後、国は措置入院制度の見直しを含めた再発防止検討チームを作りました。松本さんもメンバーに加わり、精神障害のある患者が措置入院した際は、自治体が退院後支援計画を作り関係機関と情報共有を進めるなど、退院後の支援強化を求める報告書をまとめました。

松本さん 報告書ができ、精神障害や薬物依存の当事者団体などの声も拾いながら国会で議論ができたのはよかったと思っています。人権擁護に関して「これはデリケートな問題なんだ」と厚労省も感じてくれ、「刑罰より支援が必要だ」という議論もされました。

――しかし結局、報告書を受けて政府が提出した精神保健福祉法の改正案は、参院で可決されたものの、衆院で審議されず廃案になりました。

松本さん 一番は時間切れですね。十分議論したけれど、それが故に時間切れになった。ただ、もし法案が通っても、現場の対応は間に合う状況ではありませんでした。法改正はされないまま、退院後の支援計画策定は診療報酬で手当てされるようになり、案外それでよかったのかもしれません。強制的ではないけれど、本人の同意を取りながら支援計画を立てていく、という流れは悪くないと思っています。

 自傷や他害の恐れが消えたらただちに措置解除して、本人が希望しない限り支援はしないとするのが最も人権侵害がないやり方かもしれませんが、それも無責任。無用な行動制限は絶対いけないけれど、出た後の「おせっかい」もするのが精神福祉医療だと思うんです。

――松本さんは著書などで「依存症は『人に依存できない病気』で、薬物に頼らないと人とつながりを持てない人が薬物に吸い寄せられる」と指摘しています。この視点から見た植松被告は?

松本さん 本人に会っていないからはっきりは言えませんが、やはり彼は、自分の居場所やステータスが欲しかったんだと思います。あるいは誇大的な自己イメージを維持するために、そのツールとして薬物があった気がします。彼は大麻の前、危険ドラッグを仲間と使っていましたが、時代の風潮でそういう薬物と接する中で、人とは違う、俺はこんなのをやっているんだと、強気になりたかったのでは。生きづらさを解消するために使っているタイプとは、少し異なる気がします。

――誇大的な自分のイメージを保つのに薬物が彼にとって有効だったとのことですが、薬物を使うことで誇大的なイメージが広がってしまう、という作用は?

松本さん もちろん、そうなる人はいますが、そこまでのレベルじゃない。自己愛の強い大酒飲みの人って結構いますよね。自分のイメージを維持するために、時々は酒を飲んで「酔い」の中で空想的な万能感に浸り、上司や同僚への文句を愚痴っている人。それに近いと思います。

――薬物の影響ではないとして、被告の人格的な部分、人格障害というのか極端な思考の偏りというのか分かりませんが、そこに精神医療はどう関与できるのでしょう。

 松本さん 答えは難しいですね。例えば、犯罪や暴力、人を欺き、搾取することを肯定するような価値観を持ったいわゆる「反社会性パーソナリティー障害」の人たちに、精神科医は基本的に無力だと思っています。それをベースにして、うつや統合失調症が生じた場合は、僕らも関われる部分はありますが、反社会性パーソナリティーだけだと難しい。要するに価値観や信条の問題じゃないですか。それに関して医療が修正できると思うのは、おこがましいし、越権行為。むしろ司法が対応すべき領域です。

 ただ、被…

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