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相模原事件を考える~公判を前に

後悔から始まった「ワンダー」 翻訳した中井さんが伝えたい世界

「ワンダー」を翻訳した中井はるのさん=東京都内で2019年12月9日午後3時44分、小川祐希撮影

 相模原市の障害者施設殺傷事件で、殺人罪などで起訴された植松聖被告(29)は、今も障害者の存在を否定する発言を繰り返している。わたしたちは障害者に対する偏見にどう立ち向かえばいいのか。「トリーチャー・コリンズ症候群」という生まれつき顔に障害のある主人公の少年の学校生活を描いた物語で、映画化もされた「ワンダー」(R・J・パラシオ・作)を翻訳した中井はるのさんに話を聞いた。【くらし医療部・小川祐希】

被告から感じる強い自己愛と正当化

--事件が起きたとき、どのように思いましたか。

中井さん 「何でこんなことが起きたのか」と、自分の気持ちを整理できないほどびっくりしました。自分が元々仕事をしていた施設に押し入って無抵抗の人たちに致命傷を負わせるという植松被告のやり方に、同僚だった職員や入所者に対して何か恨みがあるようにも見えました。

 そして、植松被告の自己愛の強さを感じました。植松被告は「障害者は生きていても意味がない」と供述していましたが、殺害を「俺がやってやった」と正当化し、優越感を味わっているようでした。京都アニメーションの放火事件もそうですし、もっと身近なところでは児童虐待や家庭内暴力もそうですが、自分は絶対的な存在で悪くない、他人が悪い、他人のせいで自分はこんな目に遭っているんだと考える人が、世の中にいるんだと感じています。

正しいことか、親切なことか

--事件当時、インターネット上では植松被告の発言に同調するような意見もみられました。

中井さん 被害者の家族にとって、彼らは唯一無二の存在です。それを「いなくていい」と言うのはおかしなことです。それぞれの人がいろんな考えを持つ自由はあります。だけど、それをネットに書き込むのではなく、自分の中でどう昇華させてプラスの感情に変えるか、という問題です。

 「ワンダー」に印象的な言葉が出てきます。主人公のオーガストが受ける授業で、先生が「正しいことをするか、親切なことをするか、どちらかを選ぶときには、親切を選べ」という米国の作家の言葉を紹介します。人に親切にしている限りは、誰かを傷つけることにはならないはずです。

内面を知ることで友情が生まれる

--「ワンダー」シリーズでは、オーガストへのいじめを主導していた同級生のジュリアンが、自分がオーガストのせいで睡眠中に悪夢を見るようになったことを理由に挙げて、いじめを正当化していました。

中井さん ジュリアンはまだ社会を知らない子供で、親はかなり甘やかして育てていました。特に母親はジュリアンのために、学校の集合写真に写ったオーガストの顔をパソコンの編集ソフトで消してしまいました。こういう環境のために、ジュリアンは自分とは異なる存在であるオーガストを受け入れられず、嫌悪感や恐怖感を覚えていじめをするようになったのだと思います。

--一方で、オーガストには少ないながら友達もできます。

中井さん サマーという同級生の女の子の存在が大きいです。教師から友達になるように言われたわけではなく、オーガストの良さを自分で見つけて友達になりました。オーガストも、もう一人の友達のジャックとけんかしたときに、サマーにだけは悩みを打ち明けることができました。サマーは相手の話をよく聞き、内面を見ようとするタイプの子です。このサマーの生き方は、いろいろな人にとって指針になるかもしれないですね。

 ジュリアンと一緒になってオーガストをいじめていた同級生たちも、学校行事のキャンプをきっかけに、いじめをやめます。オーガストがキャンプ場で他校の生徒にいじめられるのですが、同級生たちはそれを見て助けに来ました。彼らも、オーガストの個性や良さに気づいていたのです。

 私自身も、中学生の時は無口であまり友達がいなかったのですが、クラスでずっと隣の席だった子から「(中井さんは)意外と面白いところがあるから、友達になりたい」と言われたことがありました。

 異質なものに対して友達になるというのは、難しいことかもしれません。しかし、こうやって内面を知ることで、本当の友情が生まれると思います。これは、今後さらに増える在日外国人の受け入れでも、同じことが言えます。

同じ場で生活することで理解は深まる

--内面の良さを見つけるというのは難しそうです。

中井さん 障害のある子もない子も学校の通常学級で学ぶ「インクルーシブ教育」という方法が…

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