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細いながらもつながっていた父と子…ある出来事が引き金に 長男刺殺の元農水次官、16日午後判決

元農林水産事務次官の熊沢英昭被告が長男英一郎さんを殺害したとされる自宅=東京都練馬区で2019年6月4日午後0時48分、最上和喜撮影

 東京都練馬区の自宅で今年6月、当時44歳の同居の長男を刺殺したとして殺人罪に問われた元農林水産事務次官の熊沢英昭被告(76)に対する裁判員裁判の判決が16日午後、東京地裁で言い渡される。元エリート官僚はなぜ、我が子を自らの手であやめたのか。法廷でのやりとりからは、引きこもりがちな息子に手を差し伸べようとして暴力を振るわれ、思い詰めていく父親の姿が浮き彫りになった。【田中理知】

 「あの、私、熊沢と申します。息子を刺し殺しましたので、自首したい」

 11日、東京地裁で開かれた初公判。事件のあった6月1日に警視庁の通信指令本部にかかった一本の110番の録音が再生された。

 「長い経緯があるのですが……。何回も刺し、殺しました。もう動かないです」

 「3度くらい殺されそうになりまして。本気でかかってきて。(包丁は)遺体のそばにあります」

 凄惨(せいさん)な現場とは裏腹な、淡々とした受け答え。被告は長男の英一郎さんを殺害した後、自ら警視庁に事実を伝え、逮捕された。

 東大法学部を卒業し、霞が関で出世コースを歩んでいた被告にとって、英一郎さんは最初の子だった。小学生のころから進学塾に通い、有名進学校に進んだ。だが、周囲からは「落ち着きがない」と評され、友達付き合いもうまくいかない。やがて「空気が読めない」との理由でいじめられるようになったという。時を同じくして、家庭内での暴力が始まった。

 被告は多忙な勤務中も、電話で妻から暴力の報告を受けていた。仕事を中断して帰宅することも度々だった。それでも、この頃の英一郎さんは、被告の言葉に従っていたという。

 「父は農水省の事務次官で、BSE(牛海綿状脳症)を批判を受けながらも解決に導いたすごい人だ」。英一郎さんは後に知り合った友人に、父を自慢していた。尊敬し、誇りに思っていたようだ。

 英一郎さんは発達障害と診断されており、被告は接し方に試行錯誤していた。英一郎さんが大学に進学すると、1人暮らしの下宿先を訪ねてはゴミを片付け、ファミリーレストランに誘った。農水省を退官し、2005~08年にチェコ大使を務めた際も、国際電話やメールのやりとりを欠かさなかった。「生きがいを持たせたい」と、アニメが好きな英一郎さんに同人誌即売会「コミックマーケット」への出店を勧め、自ら売り子役を務めたこともある。

 職に就いた英一郎さんが上司とトラブルを起こし、無職になると、東京都内に別宅をあてがった。引きこもりがちな息子と意思疎通するため、被告はソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を開設。「明日は可燃ゴミの日だよ」「ひげはそりましたか」「健康的な生活を送りましょう」――。きめ細かく呼び掛けていた記録が見つかっている。

 細いながらも、つながっていた父と子。しかし、ささいな出来事をきっかけに関係は…

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