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相模原事件を考える~公判を前に

ともに生きることと優生思想 社会学者・立岩さんの視点

インタビューに答える社会学者の立岩真也さん=東京都千代田区で2019年11月25日、宮間俊樹撮影

 相模原市の障害者施設殺傷事件では「優生思想」に焦点が当たり、盛んに議論された。人の生そのものを差別する言葉や思想にとらわれないためには、どうすべきなのか。病い、老い、障害とともに生きることから社会を考察する「生存学」を提唱する社会学者の立岩真也さん(59)に話を聞いた。【くらし医療部・上東麻子】

――事件後、植松聖被告(29)の「障害者は不幸しか生まない」との言葉に、残念ながらインターネット上では少なからぬ賛同の書き込みがありました。どう受け止めたらよいでしょうか?

立岩さん 人を殺すまでのことをやる人はめったにいない。もちろんいるべきではない。ただ、彼が思い、言っていること、彼を動かしているものと、我々の社会についての認識の間にはそんなに距離はないということは押さえておかないといけません。この事件や、障害者の存在を否定する根っこにあるのは、社会に対する無駄な危機感だと僕は考えています。まず、「世の中が放っておくと悪くなる」というお話が本当なのかを問うていかなければならない。

――確かに、少子高齢化で働き手が不足し、若者の負担は重くなる、経済成長も望めず、「社会は危機的な状況にある」という認識に覆われているように感じます。

立岩さん 特に植松被告はバブル崩壊後の停滞した時代に育ったこともあり、将来が暗いとか不安がデフォルト(最初から設定されている状態)になっているようです。しかし、それは事実認識としてどうなのか考えるべきです。確かにこの社会に大きな問題はあります。しかし、それは絶対的な不足の問題なのか、あるいは格差など社会的に対処できることなのか。普通に考えていくなら、後者だということになります。

 本当に大変なら、覚悟を決めて、それでも人が死なずに済むように、どうするか考えるしかない。けれども、少子高齢化で社会が本当にまずくなっていくのかというと、私は違うと思っている。例えば、働き手がいなくなるから、高齢者や障害者を養っていると、そちらに手が取られて他の生産的な仕事ができなくなるという類いの話。

 しかし戦後、医療の進歩もあり50代だった平均寿命が80代になり、1人が働ける期間は長く、一生の中での働ける時間の割合は高くなっています。僕は来年60歳になるけれど、まだ働きたい。そういう人間は周りにいっぱいいる。定年というシステムは、余った人間を社会的にどう荒立てない形でいったん切るかという、人がたくさんいた時代の仕掛けだと考えた方がいい。専業主婦を外で働かせずにおくのも同じ理由。一個一個、そういう社会にある仕掛けを考えて、これからの時代に合うように変えていけば、人が足りなくなるということはないはずなんです。少なくとも社会を覆い尽くしているこうした無駄な危機感に思考停止せず、検証したり議論したりする必要があります。

――事件は障害者が社会から離され、集団で施設で暮らしていたからこそ起きたと指摘する識者もいます。1970年前後から国内では「コロニー」と呼ばれる大規模入所施設が建てられ、事件が起きた「津久井やまゆり園」も同時代に整備されました。国は「地域移行」を掲げていますが、施設にはまだ12万人以上が残されています。重度で高齢化した人が残されており、厚生労働省は「(そうした人の)地域移行は難しい」との認識です。現状をどうみますか?

立岩さん 少なくとも出たい人は出していく手立てはいくらでもあって、いくらかの金と手間をかければ結果は出ます。例えば私が暮らす京都にある「日本自立生活センター」は重い筋ジストロフィーの人が病院から出て街で暮らすことを支援しています。その活動は、年商数億円になる介護派遣事業に支えられているんですが、その収益を使って「地域移行」に力を入れている。そこは自分のところの資金を支出して「移行」支援の費用を賄っているんですが、一人一人の「移行」のための政府予算が支出され、それを使えるなら、全国の状況が変わってきます。

 進まない理由は列挙できますが、それを一つずつ潰していくことが必要です。精神科病院も身体障害者施設も。やればできる。金がないのかと言えば、それの何倍もの金が精神科病院には出ているわけで、金をかけるバランスを変えればいい。人材不足の問題も例えばヘルパーの時給を2000円にすることで人が集まり、解決できます。それを積算してみれば分かりますが、大した額にはなりません。そしてそのお金は右から左に移るだけでのことで、社会が大変になるなんていうことは全然ないんです。

――地域移行の流れで街中に障害者のグループホームが増えており、昨年はグループホームの利用者が施設入所者と同じ12万人台になりました。しかし同時に、住民からの建設反対運動も各地で起きています。

立岩さん 人が「住みたい」と言う時に、「住んじゃいけない」などは、よほどの理由がなければ言ってはいけないことです。まずその基本中の基本を確認すべきなんです。

 例えばある人種の人たちの犯罪率が高いことが実証的に言える場合があるとして、そういう人種の一員だからといって「住んじゃいけない…

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上東麻子

1996年毎日新聞入社。佐賀支局、西部本社、毎日小学生新聞、東京本社くらし医療部などをへて2020年から統合デジタル取材センター。障害福祉、精神医療、差別、性暴力、「境界」に関心がある。日本新聞協会賞を受賞したキャンペーン報道「旧優生保護法を問う」取材班。共著に「強制不妊」(毎日新聞出版)。散歩とヨガ、ものづくりが好き。

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