メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

常夏通信

その22 74年目の東京大空襲(9) 最若年は74歳 国の差別と闘い続ける戦争被害者たち

全国空襲被害者連絡協議会の「総決起集会」。第二次世界大戦の空襲や沖縄戦、マリアナ諸島など南洋での戦いにおける被害者に「社会の常識にのっとった援護」などを求めるアピールが採択された=東京・永田町の衆院第2議員会館で2019年12月6日、栗原俊雄撮影

 「河村先生、対象者がどんどん少なくなっています」

 今月5日、国会内で開かれた「超党派空襲議連」の総会。東京大空襲の被害者、河合節子さん(80)が議連の会長を務める河村建夫元官房長官に、そう訴えた。「よろしくお願いします」。そう続けた河合さんは、第二次世界大戦の空襲で被害を受け、国に補償を求めている市民団体「全国空襲被害者連絡協議会(全空連)」の一員だ。1945年3月10日、米軍による東京大空襲で母親と弟2人を殺された。

 今年4月以降、国会会期中の原則木曜日、衆議院第2議員会館前でつじ立ちをして、民間人空襲被害者の救済を訴えてきた。

 議連総会の翌6日、全空連は正午からいつもの場所で集会を開いた。普段は河合さんたち4~5人だが、この日は全空連が「正念場」と位置づけた集会だけに20人ほどの会員が駆けつけた。

 新緑だった国会前の木々は紅葉を経て、北風で落ち葉が舞う季節となった。一年中、「8月ジャーナリズム」(=戦争報道)をしている常夏記者が、冷たい風の中に立ち続ける河合さんたちの姿を見ながら思い出したのは、2015年12月8日の光景だった。

 その日も、同議員会館前で全空連が集会を開いていた。空襲被害者ら50人が参加した。車いすで、あいさつのマイクを握るのは杉山千佐子さん。1915年生まれ。大戦末期の45年3月25日、名古屋大空襲で顔面などに大けがをした。顔の半分近くを白い眼帯が覆う。70年代から空襲被害者を援護するための立法運動を始め、この問題で先駆的な役割を果たしてきた人物だ。

 「とうとう100歳になりました。まだ援護法の『え』の字もできていない。みんな苦しんでいます」。40年以上、国会議員への働きかけや講演、著作などで補償の実現を目指してきた。「『私たち空襲の犠牲者を助けてください』と言えば、助けてもらえると思っていた。足をなくした者、手をなくした者。何人も引き連れてやってきたが、だめでした」。東京、大阪、名古屋。それぞれの大空襲被害者が国に補償を求めて闘った裁判は、すべて原告敗訴が確定していた。裁判所はたびたび、立法による解決をうながしたが、行政も政治も無視してきた。それでも、杉山さんはあきらめていなかった。「二度と戦争のない国にしなくてはいけない。がんばりましょう!」

 国に、国民に対する戦後補償をしっかりさせること。そのシステムを作ることが、為政者たちに二度と戦争をさせない力になる。立法運動に関わっている人たちの強い思いだ。

 あのあいさつから丸4年が過ぎた。杉山さんは2016年、悲願だった立法を見ることなく永眠した。

 全空連は今月6日、つじ立ちの後、同議員会館内で「総決起集会」を開いた。100人近くが参加した。

 私は最近、こうした戦争被害者たちの集会に、新聞記者志望の学生を誘っている。何の罪もないまま、戦争という国策によって被害に遭い、国は救済を放棄。80歳を過ぎて命を削り闘っている人たちのことを知ってほしい。記者になったら広く発信してほしい。そう願っている。

 新聞やテレビなど他社の記者にも声をかけている。この問題については、ライバルの垣根を越えなければならない。不当な差別の実態を広く知ってもらい、国を動かさなければならない。そういう気持ちからだ。

 集会では安野輝子さん(80)がアピール文を読み上げた。大阪大空襲国賠訴訟の原告団代表を務めた安野さんは、1945年7月、鹿児島県川内市(現薩摩川内市)の実家で空襲に遭い、左足の膝から下を失った。6歳になったばかりだった。「トカゲのしっぽみたいに、脚が生えてくると思っていました」

 脚は生えてこなかった…

この記事は有料記事です。

残り2386文字(全文3886文字)

栗原俊雄

1967年生まれ、東京都板橋区出身。早稲田大学政治経済学部卒、同大学院修士課程修了(日本政治史)。96年入社。2003年から学芸部。担当は論壇、日本近現代史。著書に「戦艦大和 生還者たちの証言から」「シベリア抑留 未完の悲劇」「勲章 知られざる素顔」(いずれも岩波新書)、「特攻 戦争と日本人」(中公新書)、「シベリア抑留 最後の帰還者」(角川新書)、「戦後補償裁判」(NHK新書)、「『昭和天皇実録』と戦争」(山川出版社)など。

おすすめ記事
広告
毎日新聞のアカウント
ピックアップ
話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. 27%ショック「底打った」「危険水域」与党動揺 石破氏「かなり厳しい」

  2. 無言の抵抗の思いとは?医療従事者100人、ベルギー首相に背を向け「冷たい歓迎」

  3. 特集ワイド 乱世で「小池劇場」再び 風読みコロナ対応次々、好感度上昇

  4. 余録 都市封鎖をせず、欧米各国と一線を画したスウェーデンの…

  5. 特集ワイド 元文科相・田中真紀子さん 秋入学、まず大学だけ

編集部のオススメ記事

のマークについて

今週のおすすめ
毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです