旧ソ連軍侵攻から40年 避難強いられ、未来見えないアフガン難民 UNHCR局長が寄稿

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インドリカ・ラトワッテ国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)アジア太平洋局長=UNHCR提供
インドリカ・ラトワッテ国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)アジア太平洋局長=UNHCR提供

 今月4日、福岡市のNGO「ペシャワール会」現地代表で医師の中村哲さん(73)がアフガニスタン東部で何者かに殺害される事件が発生し、依然混乱が続く同国の厳しい現状を突きつけられた。現地では紛争がやまず、今も周辺に大量の難民が流出し続けている。混乱の発端となった旧ソ連軍侵攻(1979年12月)から今月で40年を迎えた。インドリカ・ラトワッテ国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)アジア太平洋局長が「アフガニスタンの強制移動をなくすために」と題して毎日新聞に寄稿した。中村さんが情熱を傾けたアフガニスタンの人々の過酷な現実に思いをはせたい。【鵜塚健/統合デジタル取材センター】

<アフガニスタンの強制移動をなくすために>

460万人が国外避難し、うち270万人が難民登録

 旧ソ連軍によるアフガニスタン侵攻から、今月で40年を迎えます。1979年12月以降、終わりなき紛争と暴力により、アフガニスタンから多くの人が強制的な避難を余儀なくされました。現在、アフガニスタンから国境を越えて避難している人は約460万人、その半数を占める270万人が難民として登録されています。世界を見渡してみても、アフガン難民は最も長く避難生活を強いられ、世界から疎外された難民の一例で、40年たった今もなお、自身の未来も見えない不安定な状態にあります。そして、国際社会から見放されているのではと、日々不安に襲われています。

 アフガニスタンにおける強制移動をなくすためには、継続的な平和と安全、そしてインクルーシブ(包括的)な政策と開発がカギとなります。しかし長年にわたる努力のかいなく、この目標はいまだ達成できていません。国境を越えて逃れているアフガン難民の基本的なニーズ、尊厳を守ることも、人的資源や技術への投資、持続的な帰還、自国への再統合に向けた支援も十分とは言えません。

9割がイラン、パキスタンへ 教育や医療にアクセス

 アフガン難民は、世界80カ国以上で庇護(ひご)を受けています。現在、ヨーロッパ諸国に逃れてきている庇護申請者のうち、最も大きな割合を占めるているのもアフガン難民です。しかし、国を逃れたアフガン難民の90%がパキスタンとイランの2カ国に集中しているという事実はあまり注目されることがありません。両国の政府は、それぞれの国で社会経済的な課題を抱えながらも、隣国から逃れてきた人たちを寛容に受け入れているのです。パキスタンでもイランでも、アフガン難民は主要都市で自由な権利を得て生活し、子どもへの初等教育、すべての人への国の保健医療システムへのアクセスが確保されています。40年前にはわずか6%だったイランのアフガン難民の子どもの識字率は、現在69%にまで伸びています。世界の経済大国といわれる国々は、社会全体で難民を受け入れ、課題に立ち向かっている両国を見習うべきです。  

アフガン難民がイランで大学進学、医師に

 1979年、当時生後1カ月だったフェッゼ・ホッセイニは、両親に連れられてアフガニスタンからイランに逃れました。イランのマシュハドに到着した一家が求めたのは、ほかでもない、生きるために誰しもが共通して必要とするもの――安全な滞在場所、食糧、学校教育、健康でした。日々の暮らしは厳しいものでしたが、幼いフェッゼは避難先のイスファハンで、自国では許されなかった教育を受けることができました。家族と熱心な先生の勧め、インクルージョン(包括)を目指した先進的な政策も後押しし、フェッゼは医学部に進学することができました。フェッゼはイスファハンで唯一のアフガニスタン人医師となり、現地の人、難民の区別なく医療を提供しています。彼女の成功は、個人の能力や苦境を乗り越えるたくましさに加え、故郷を追われた人がより良い将来に向けて歩んでいけるよう、さまざまな支援を行ってきた結果だと言えるでしょう。

 フェッゼ・ホッセイニ医師は5歳の娘とリビングルームに腰掛けながら、故郷を離れたことでより良い未来を手にするチャンスを得たという事実に、皮肉だと感じながらも感謝の念を抱いていました。でも彼女は自身に問いかけていました。この先、子どもや孫の世代はどうなるのかと。これは故郷を追われたアフガニスタン人のみならず、国際社会に暮らす私たちに等しくのしかかる終わりなき問いなのです。

難民帰還へ、アフガニスタンも努力

 アフガニスタン政府はいまだ脆弱(ぜいじゃく)でありながらも、市民のために平和で安定した未来を構築しようと奮闘を続けています。民間人の犠牲者が急増し、政府が持つ領土が縮小しても、条件…

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