メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

ALL FOR 2020

東京へ ともに歩む

毎日新聞

東京五輪の印象などを語る作家の額賀澪さん=東京都千代田区で2019年12月2日、宮本明登撮影

東京・わたし

五輪と小説 「全部見て、全部作品に」 作家・額賀澪さん

 東京五輪が近づいているのにわくわくしない――。作家の額賀澪さん(29)は短編小説「オリンピックを知らない僕達へ」で、主人公の率直な気持ちをつづりました。費用が高額になり当初の建設計画が白紙となった国立競技場、盗用騒ぎで撤回されたエンブレム、唐突に決まったマラソン・競歩の札幌移転……。混乱が目立つ五輪を取り巻く現状について、スポーツの魅力を伝えてきた青春小説作家の額賀さんに聞きました。【聞き手・田原和宏】

     ――「オリンピックを知らない僕達へ」の主人公である慎一郎は20代の若手編集者で、学生時代に高飛び込みで五輪出場を夢見た元選手。「僕は、東京オリンピックに全然わくわくしないんです」と語っています。どのような思いを作品に込めたのですか。

     ◆五輪開催が決まった時、彼は入社1年目の会社員でした。私も主人公同様、国内で開催された五輪の記憶があまりありません。素直に五輪が決まってうれしかった。初めてこの目で五輪を見られると。しかし、その後はそんな気持ちをそぐ出来事ばかり。なぜこれほど素直に楽しめないのか。今もそうです。悪い部分ばかり目に付き、わくわくする、これから楽しいことが起きるという気持ちになれないまま来てしまったからです。そんな気持ちをうまく小説にできないかと思ったのが書いたきっかけです。

     ――これまでは青春小説が中心だったと思います。周囲からは、そのような話を期待されたのでは。

     ◆2020年東京五輪をテーマに書いてほしいと言われました。五輪で若者が盛り上がる姿を描く、さわやかな小説も書こうと思えば書ける。でも、それを今やると何だかうそっぽい気がしました。五輪2年前という設定でしたが、五輪開幕を控えている方々が読んで、「そうだよな」と思っていただけたらと思い、担当編集者に相談しました。五輪を楽しみにしたいけど、なぜか楽しみにできない若者の話ですと。

     ――度重なる騒動をどのように見ていますか。

    亀倉雄策氏による1972年札幌冬季五輪のポスター=日本グラフィックデザイナー協会提供

     ◆改めて五輪を自分の国で開催するということが、いかに大きな出来事なのかと感じています。山積みの問題を振り返ると、日本の悪い部分が全て出たような感じがします。マラソン・競歩の札幌開催はまさにという感じですね。

     ――札幌開催について、どのように感じましたか。

     ◆多くの人々がコンクリートジャングルと呼ばれる東京で、8月にマラソンをやれるのかと指摘してきました。五輪を準備する人たちも大変なレースになると思っていたはずです。そう思いつつも根本的な解決策を見いださず、遮熱舗装などの暑さ対策をすればなんとかなるだろうと計画を進めた結果、こうなった。無理だと分かっているのに動き出したら止められない。日本らしい失敗だなと思います。あれを見て、うちの会社でもあると思った方は多いのでは。会社員生活は5年でしたが、私も同じような失敗を見てきました。

     ――主人公はスポーツ小説の名手である「守重先生」との交流を通してスポーツの魅力に立ち返ります。1972年札幌冬季五輪のポスターが象徴的に登場しますね。64年東京五輪のポスターなどを手掛けた亀倉雄策氏のデザインです。スキー選手が滑空する瞬間、フィギュアスケートの選手がスピンする瞬間をそれぞれ捉え、背景の青色が印象的です。

    「作家たちのオリンピック」の中の短編小説「オリンピックを知らない僕達へ」で五輪への思いをつづった作家の額賀澪さん=東京都千代田区で2019年12月2日、宮本明登撮影

     ◆法人向けの広告代理業をしていた関係で、いいなと思うデザインなどを集めていました。64年東京五輪も素晴らしいですが、あの(72年の)ポスターは本当にすてきだなと思いました。五輪がアスリートの祭典であることを改めて感じさせてくれます。ああいうポスターが街中に張られていたら、五輪を楽しみに思えるんじゃないかな。五輪関連の企業広告をよく見かけますが、おためごかしのものばかり。申し訳程度にアスリートが登場し、あとは企業名とエンブレム。最後は「我が社は東京2020を応援しています」でおしまい。これでは、主人公のような人々は複雑な気持ちのまま五輪を迎えることになってしまいます。

     ――作家としてどのように東京五輪と向き合いますか。

     ◆主人公が作家に対して「五輪を楽しみにできる小説を書きましょう」と話す場面があります。私は今年、競歩と箱根駅伝を舞台とする小説をそういうつもりで書きました。五輪そのものは盛り上がるでしょうが、きっと大会後はさまざまな課題が残ると思います。それらをきちんと問いかけられるように書いていきたいと思います。

     ――「オリンピックを知らない僕達へ」は短編集「作家たちのオリンピック」のための書き下ろし作品です。額賀さんを含め7人の作家が五輪をテーマにつづっています。他のメンバーは浅田次郎さんや奥田英朗さん、小川洋子さんら有名作家ばかり。重圧はありましたか。

     ◆すごい顔ぶれで驚きました。いろいろな作家が五輪を題材に書かれていますが、その時代を生きて、五輪を経験したからこそ分かるものがあると思います。だからこそ、東京五輪は楽しむのはもちろんだが、きちんと見ておこうと思います。全部見て、全部作品にしようと思います。

    ぬかが・みお

     1990年、茨城県出身。日本大学芸術学部卒業後、広告代理店勤務を経て作家デビュー。2015年に「屋上のウインドノーツ」で松本清張賞、「ヒトリコ」で小学館文庫小説賞を受賞。スポーツを扱った作品としては「競歩王」「タスキメシ」などがある。

    田原和宏

    毎日新聞東京本社運動部。1972年、奈良県生まれ。教職などを経て2001年入社。06年からスポーツ取材に関わり、福岡、大阪勤務を経て13年から現職。16年リオデジャネイロ五輪では体操、卓球などを担当。東京五輪取材班キャップ。スポーツクライミングなど新競技にも注目する。職業病なのか、「おかしいやろ」が口癖。