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定番の一品 ひもとく舌のお国柄

定番の一品 ひもとく舌のお国柄

 食品の保存技術や流通手段が発達し、全国の産品がどこでも食べられる現代。しかし食品ごとに購入額トップの地域を調べると、にわかに郷土色を帯びてくる。「これしかないっしょ?」「何でそれなんやろ……」「あれもよかばい!」――。定番の一品に表れる「舌のお国柄」をひもといてみた。


     ※総務省家計調査の世帯当たり年間購入金額ランキング(2016~18年平均、都道府県庁所在市・政令市対象)に基づく。


    ■やっぱりお似合い

     購入金額・数量とも1位。明治政府が北海道の殖産興業を進める中、1876(明治9)年にサッポロビールの前身、開拓使麦酒醸造所が誕生。北の大地は原料の大麦やホップの調達、低温発酵・熟成などビール造りに適した土地だった。「日本人の手によって初めて本格的にビールを醸造した場所」として、札幌市は「ビールのまち さっぽろ」をPRしている。


    ■サイダー多数の幸福

     飲料業界では、最高気温が28度ぐらいまでは炭酸飲料が売れ、30度以上になると水や無糖の茶が売れるとされる。昨夏の青森市の平均最高気温は7月が26.7度、8月は27.4度。まさに炭酸飲料が好まれる気候ともいえそうだ。

     青森県統計分析課によると、もともと甘い飲み物が好まれる土地柄。リンゴの産地のためジュース加工場も県内各地にあり、そこでサイダーも製造しているところも多いそう。「地サイダー」の種類も豊富だ。農村部でかつて「炭酸のゲップで農薬の毒が消える」という俗説が広まり、愛飲されたという指摘もある。


    ■なかま選ばぬ万能選手

     「笹(ささ)かまぼこ」が名物の仙台市では、おつまみや弁当のおかず、おでんの具材にも好まれる。ちなみに「揚げかまぼこ」では、さつま揚げが有名な鹿児島市が1位。


    ■横浜といえば……

     横浜名物といえば、1928(昭和3)年に発売された「崎陽軒(きようけん)」(本社・横浜市)の「シウマイ」。家庭でもシューマイはよく食卓に上るようだ。※調査項目に冷凍食品や外食は含まれない。


    ■朝食にも社交にも

     人口1000人当たりの喫茶店(事業所)数は岐阜県が全国2位(1位は高知県)。「モーニング」などの喫茶店文化で知られる愛知県を上回っており、喫茶代トップもうなずける。実は和食や中華の外食代もそれぞれ岐阜市が1位で、家より外で食べる文化がある?


    ■お鍋との相性バッチリ!

     寄せ鍋やしゃぶしゃぶなどの鍋物の具材として欠かせない白菜。2位以下は大阪市、京都市、神戸市、大津市と続き、近畿の都市が上位を占めている。

     大阪はフグを使った「てっちり鍋」で知られるほか、近畿は鶏の水炊き、イノシシの「ぼたん鍋」、カモ鍋など鍋文化が豊かで、相性の良い白菜が好まれているようだ。


    ■カニだけじゃない! 何かと1位

     カニの購入金額が1位の鳥取市。高級な松葉ガニ(雄のズワイガニ)だけでなく、地元では雌のズワイガニ「親ガニ」が1匹数百円と手ごろな価格で入手できる。親ガニは小ぶりだが、風味豊かな卵巣の「内子(うちこ)」など余すところなく食べられ、地元の男性は「みそ汁にするなど毎日食べる家庭もありますよ」。

     他にも鳥取市はカレールーや即席麺、スナック菓子、マヨネーズなど各項目で1位の座を獲得。どれも明確な理由は不明だが、民間団体「鳥取カレー研究所」が設立され、特産のラッキョウや梨などを混ぜたカレーのもとを開発するなど新たな展開も見せている。


    ■かんきつを満喫

     特産品のユズ、大きくて爽やかな果汁のブンタンや小ぶりながら甘さと酸味が絶妙な小夏など、かんきつ類が豊富で親しまれている。※ミカン、グレープフルーツ、オレンジを除く


    ■おうちでも贈り物でも

     ポルトガルから長崎に伝わったとされる伝統菓子。自宅で食べるだけでなく、桃の節句の「桃カステラ」をはじめ、手土産や贈答品にカステラを購入する県民も多いそうだ。


    ■ほっぺもさわやか

     なぜ乳酸菌飲料の消費が多いのか。鹿児島県庁に聞いても「分からない」という回答だったが、取材で有力な説が浮かび上がった。

     乳性炭酸飲料「スコール」で知られ、牛乳や乳製品を手がける「南日本酪農協同」。本社は宮崎県都城市だが、看板商品の一つで乳酸菌飲料の「ヨーグルッペ」の売り上げは隣の鹿児島県が最も多いのだ。

     同社は創業間もない1962(昭和37)年に営業所を作るなど早くから鹿児島を拠点化。全国ヒットとなった72年発売のスコールに続き、85年に売り出したのがヨーグルッペだ。甘酸っぱくマイルドな味わいで地元で根強い人気があり、スーパーでは24本入りを「ケース買い」する姿がよく見られるとか。同社担当者は「田植え・稲刈りの時期には多く購入される」と話す。


    ■沖縄料理にだしのうまみ

     定番の沖縄そばの他、カツオ節とみそに湯を注ぐ「かちゅー湯」など、カツオ節を多用する食文化が沖縄には根付いている。

     だしメーカー「ヤマキ」などによると、戦前には日本の国策として南方支配地域で水産業が推し進められた。カツオ節生産のために沖縄から多くの漁民が派遣され、開戦後は戦争の辛酸をなめた歴史もある。

     現在カツオ節の生産量が多いのは静岡県や鹿児島県だが、沖縄県では今でも多くのカツオ節が消費されている。

     

     

    食文化 調べるほどに 奥深く

     今回は主に総務省・家計調査によるランキング(https://www.stat.go.jp/data/kakei/5.html)を使用し、各県の統計課や食品メーカーなどに取材しました。

     鳥取のカニのように、沿岸部で海産物が多く消費されるのは当然のように思います。それでも取材で「安い雌の『親ガニ』は毎日のように食べる家庭もありますよ」と聞くと、カニを囲む楽しげな食卓が目に浮かびます。「蟹取(かにとり)県」を名乗る鳥取県は「ウェルカニ」を合言葉にPRに力を入れており、営業努力も垣間見えたりします。

     沖縄の食文化を代表するカツオ節については、戦前の日本の南方支配の歴史を映すなど調べるほどに奥が深く、考えさせられるものがあります。だしメーカー「ヤマキ」がホームページ(https://www.yamaki.co.jp/special/kachuyu/)で解説するなどインターネットにも多くの資料がアップされています。

     データだけでなくその背景に思いをはせると、日々の食卓や旅先での食事が楽しくなりそうです。

    【文・前本麻有、グラフィック・堀内まりえ】