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認知症

公開講座「認知症予防の最前線」 「脳の寿命」延ばそう

基調講演する順天堂大学名誉教授の新井平伊さん=東京都千代田区で2019年12月13日午後2時26分

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 順天堂大学と東急不動産ホールディングスによる健康寿命延伸を目指した産学連携プロジェクト、ハッピー・エイジング・フォーラム主催の公開講座「認知症予防の最前線」(毎日新聞社後援)が13日、東京都千代田区であった。各講演の内容を紹介する。

 ◆基調講演「認知症 最新の早期診断・治療法から予防まで」 新井平伊・アルツクリニック東京院長(順天堂大学名誉教授、認知症予防財団会長)

 ●早期診断が大切

 今の統計では462万人が認知症で、前段階のMCI(軽度認知障害)も含めると800万人です。「脳の寿命を延ばす」が我々の大きなテーマです。ただ、もし認知症になっても、人生はそれで終わりではありません。

 早く受診し、治る認知症を見過ごさないことが大事です。認知症で有名なのはアルツハイマー病、血管性認知症、最近ではレビー小体型。これらは今の治療ではなかなか治すのが難しいですが、正常圧水頭症や硬膜下血腫といった脳外科疾患、甲状腺機能低下症やビタミンB欠乏症などの内科疾患などは治ります。ただ、治る認知症は少ないんです。

 認知症はアルツハイマー病が代表的で全体の6割、だんだん増えて今は7割程度です。世界中で根本的な治療法が検討されています。進むにつれ脳が萎縮し、CT(コンピューター断層撮影)で診ると脳脊髄(せきずい)液がたまっている黒い部分が増えていきます。もう一つ、脳の血流スペクト検査があります。CTは脳の「形」を診ますが、こちらは脳の「活動」を診ます。

 アルツハイマー病にも治療薬はありますが、限界があります。ただ治療法は薬だけではありません。日々楽しいことをし脳を活性化するのが一番です。認知症というと「物忘れ」と思われがちですが、物忘れは中核症状です。人間ですので、心理的な症状、行動上の症状もあります。これはきちっと分けて治療の対象にすべきです。

 行動心理症状は多彩で、物とられ妄想、イライラして家族にあたる、夜眠れない、といったものがあります。何が生活を送るうえで問題なのかを整理し、相談するのが大切です。これらの症状は治すことが可能だからです。

 アルツハイマー病はゆっくり経過します。早い段階で薬を使えば1~2年間はよくなるのですが、また進んでしまいます。しかし、早い段階で治療を始めるのと、ある程度進んでから始めるのとでは維持できるステージが全然違います。また、薬を飲んで変わらない場合は効いていると考えてください。

 ●生活改善が必須

 予防には1次、2次、3次があります。ただ「病気にならない」という1次予防は今のところ難しい。それでも発症を遅らせる2次予防、進行を遅らせる3次予防はかなりできるようになりました。

 まずは予防対策の初級者向けです。肉食傾向、飲酒、喫煙、肥満、過度の乳製品摂取などは危険因子です。動脈硬化、高脂血症、高血圧、糖尿病などのある方は治療をするのが一番大事。年齢、遺伝的なものとともに、生活習慣病は認知症リスクを高めます。リスクを下げるのは運動や食事です。魚、肉、野菜をバランスよく。

 中級者向けはもの忘れが少し心配な方用です。大事なのは認知症の前の段階、MCIです。最近はもう一歩前の段階、主観的な認知機能の低下であるSCDが関心を集めています。家族や周りの人には気づかれず、自分だけが感じている段階です。SCDもMCIもうつ病、寝不足、睡眠時無呼吸、糖尿病といろんな原因があります。ただアルツハイマー病も必ず一部含まれているので、この段階できちんと見つけることが大切です。

 あと6~7時間の睡眠。運動は、適度な汗をかくくらいのものを週3回ぐらい。あとはお酒。もの忘れが気になり始めたら減らした方がいいです。もっとも、認知症にならないことばかりに気をとられて毎日を送るのはよくありません。

 ●PETで「健脳」

 上級者向けには、私が世界に先駆けてやりたいことを説明します。「脳ドックを受けているから心配ない」という社会の認識を変えたいんです。脳ドックはMRI(磁気共鳴画像化装置)検査です。脳の萎縮の有無で判断しますが、ある程度はっきりしてこないと異常を認められません。

 アルツハイマー病は、最初にアミロイドβたんぱくが脳の中にたまってきて、タウたんぱくが絡んで神経細胞がダメージを受け、長年かけて脳が萎縮していきます。MRIで萎縮が分かるかどうかという段階で予防をしても手遅れです。アミロイドβはたまっているが、まだ神経細胞は元気といううちに介入するのが私の願いです。

 そこで導入したのがアミロイドβを検出するアミロイドPET検査を含んだ脳ドックで、「健脳ドック」と呼んでいます。アミロイドは認知症発症の約20年前からたまってくることがわかっています。アミロイドにくっついて(画像で)検出できる試薬を使います。

 専門病院で「若年性アルツハイマー」と診断されたお二人の事例です。セカンドオピニオン的に当クリニックに来られ、お一人は陰性、お一人は陽性でした。陰性の方はアルコール性の健忘症と診断しました。今は仕事に戻られています。陽性の方はMCIでしたが、国際的な(認知症根治薬の)臨床試験に参加されています。

 SCDからMCI、この段階にアミロイドがたまっているか否かで作戦を立て直すのが大切です。65、70、75、80歳で認知症の方の占める割合は倍、倍、倍と増えます。世界共通です。2次、3次予防で発症を5年遅らせることで、社会を支える世代の認知症の方を半分にできます。こうした社会貢献をできればと考えています。

 ◆講演「高齢者住宅における認知症の予防と対応への取組み」 石井良明・東急イーライフデザイン社長

講演する東急イーライフデザインの石井良明さん=東京都千代田区で2019年12月13日午後4時13分

入居者の五感を刺激

 「私らしくを、いつまでも。」を事業ステートメントとして掲げ、自立した高齢者の方向けの住宅、訪問看護、訪問介護などの事業、介護が必要な方向けの住宅を展開しています。入居者の方には適度な運動を継続的に行っていただくこと、しっかりと栄養をとっていただくことで必要な筋力を維持していただき、末永く運動が継続できるような取り組みをしています。入居者同士や地域、多世代との「交流」も支援しています。

 中でも「ロコモ予防体操」に力を入れています。筋肉、骨など運動器の障害による移動機能低下の状態がロコモです。ロコモ予防は介護予防の最初のステップとなります。

 順天堂大学と連携し2015年から、週に数回のロコモ予防体操と年2回の体力測定をしています。男性3人、女性8人が参加し平均年齢は87歳です。15年と19年を比べると8人の体力が上がっていました。ロコモの防止は認知症予防にも有効ではと考えています。

 自立型住宅にはレストランがあります。栄養士が栄養のバランスを考えたメニューを提供しています。

 「交流」ですが、住宅内に映画鑑賞、音楽鑑賞などたくさんのサークルを設け、部屋から出るのが楽しい環境づくりに取り組んでいます。東京都世田谷区中町などでは、分譲マンションとシニア住宅を隣接させ、さらに地域に開かれた共用棟をつくり、街全体での交流を図っています。行事を地域の人にも開放しています。

 要介護の方向けの住宅には、認知症ケアの指針を定めています。介護される側を中心に考える、パーソン・センタード・ケアを掲げています。ご本人の状態、環境、性格の傾向、生活歴などを多面的に考え、満足度を上げていこうとしています。重要なのは、ご本人がどんな思いを持っておられるのかを知ることです。「見る」「話す」「触れる」「立つ」を柱に、ケアの際に本人の尊厳を保つユマニチュードを積極的に導入しています。

 認知症になっても安心して生活できる住宅デザインにも注力しています。英国のスターリング大学認知症サービス開発センター(DSDC)は、認知症に優しいデザインを研究しています。そこと提携し、知見を住宅に反映させることを考えました。

 見通しがよく、どこに何があるか分かりやすい設計、五感の機能を高めるデザインなどを取り入れ、DSDCの認証検査の結果、欧州連合(EU)以外で初めて最高位のゴールド認証を取得しました。例えば、お手洗いの扉は黄色に統一しています。トイレは自分で行けることが尊厳を保ちます。危険な扉などは壁の色と同化させ、分からないように工夫しています。

 ただ、最終的には働くスタッフがご入居者に提供するサービスこそ最大の付加価値であり、スタッフのモチベーションの維持や満足度の向上が最も重要だと考えています。

 ◆講演「もの忘れとどう付きあうか 認知症の人の心を支えるには」 松田修・上智大学総合人間科学部心理学科教授

支え合い幸福感向上

講演する上智大学の松田修教授=東京都千代田区で2019年12月13日午後3時23分

 認知症になっても人生を楽しむには、また少しでも認知機能の低下を起こりにくくするためにどう生きていくか、ということを研究しています。

 アルツハイマー病の方は、新しい情報を脳に保存できません。(本人が何か言うと)周りは知っていて「お父さん、こう言ったでしょ」と言われるけど、本人には覚えがなくて、自分だけ知らないことを皆が知っているというのが不思議だと。そして、つい家族に怒ってしまうということでした。また、今まで当たり前のようにできていたことが、当たり前にいかなくなる。この変化に皆さんとても悩まれます。そうしたことで人生が楽しめなくなるんじゃないか、と思っておられるのではと感じています。

 不安を感じている患者さんの心を支えるためにしてきた実践や研究を紹介します。

 まずは認知機能の低下を遅らせる取り組みです。結局、うまくいったのは物事を効果的に情報処理する前頭葉に刺激を与える取り組みでした。(後出し)じゃんけんで、私の指示通りに勝ったり負けたりしてもらうエクササイズなどです。

 次は活動の維持、社会参加を支える取り組みです。認知症の初期の方、自分でできることはできる限り続けたいという方には、工夫と周囲の思いやりで結構、活動を続けることができます。患者さんはまだまだできるという幸福感を感じ、生きる意欲になって活動参加にもつながります。

 患者さんが、大好きなテレビ番組を見ていない、おかしいと感じたご家族は、患者さんが違う日の新聞を見ていることに気づきました。それからご家族は部屋にその日の新聞しか置かず、老眼鏡やテレビのリモコンを1カ所に置くようにしました。たったこれだけで大好きな番組を楽しめるようになりました。

 続いて心を支える取り組みです。集団精神療法的な「メモリーミーティング」に参加している患者さんが最近の悩みを話すと、別の患者さんが温かい言葉で励ましたのです。励まされた患者さんはいつも他の患者さんを励ましてくれる人でした。患者さんが互いに支え合うことで力を得ていることを学びました。

 根拠に基づいた工夫をすることで患者さんの願いがかない、日常生活や社会生活を続けられる可能性があること、そして、患者さんも誰かを支え、役に立ちたいと思っておられることを、多くの患者さんから学ばせていただきました。

 学生の研究で、幸福度の高い方ほど友人関係に満足していることや、他者に貢献する活動をしている方の幸福度が高いことが分かりました。高齢になっても認知症になっても、他者と関わり、他者のために役に立ちたいと思って行動することが、幸福感の維持、向上につながる可能性があるのではないでしょうか。

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