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病院に行けず重症化も 保険加入も就労もできない「仮放免」外国人の苦悩

採血を受けるカンボジア人女性=東京都清瀬市の信愛病院で2019年11月10日午後0時5分、吉田卓矢撮影

 人手不足に伴う国の外国人受け入れ政策などで近年、在留外国人は増加の一途をたどっている。そんな中、貧困問題をテーマにしたある市民集会で、外国人医療の問題が深刻だ、という話を耳にした。特に仮放免と呼ばれる非正規滞在の外国人は、健康保険がないために高額の医療費を恐れ、病院へ行かずに病気が重症化するケースもあるという。困窮する外国人向けの医療相談会があると聞き、行ってみた。【吉田卓矢/統合デジタル取材センター】

 11月上旬、東京都清瀬市。西武池袋線秋津駅を降り、南へ歩いて10分の場所にある信愛病院を訪れた。相談会は経済的に苦しい外国人らを対象にしており、NPO法人「北関東医療相談会(アミーゴス)」が1997年から関東各地で年に数回開き、今回で56回目という。開始1時間前の午前9時、病院のエントランスに入ると、既に10人ほどの外国人が待っていた。その後も続々訪れ、アジアやアフリカ、南米などの8カ国38人(男性17人、女性21人)が集まった。スタッフは医師や看護師、医療ソーシャルワーカーのほか、英語やフランス語、タガログ語などの通訳ら計84人が対応に当たり、みなボランティアだ。

 通常の身長・体重の計測から尿・血液検査、心電図、問診などがあり、弁護士や医療ソーシャルワーカーによる個別相談も受けられるという。深刻そうな表情をしていた男性が気になり、話しかけてみた。男性は47歳で、バングラデシュ出身。非正規滞在という。相談会に訪れた外国人には、在留資格がある人もいるが、いわゆる非正規滞在者もいる。群馬県在住で、フィリピン人の妻と小学5年の娘とともにやって来た。もともと観光ビザで入国し、超過滞在となり入管施設に2度収容されたが、今年8月に「仮放免」になったという。

 男性によると、以前からあった腰の痛みを施設で悪化させたが、十分な治療を受けられなかった。仮放免後、群馬県内の病院で受診し「腰椎(ようつい)分離すべり症」「前立腺肥大症」と診断された。腰椎分離すべり症は、背骨の一部が割れてずれる病気で、腰や足の痛みが強く、診断書には「日常生活に著しく支障をきたすため、手術を要する。手術費用は、全額自己負担の概算で約200万円」と記されていた。入管では車椅子生活だったといい、仮放免後に痛み止め薬の服用とリハビリで歩けるようになった。足腰の痛みで右ひざの関節症も患ったため、歩き方が少しぎこちない感じだ。

 仮放免とは、入管施設に収容された外国人に対し、入管当局が在留資格を与えないまま、一時的に収容を解く措置のこと。一定期間ごとに出頭する義務や移動の制限があり、今回の相談会にも事前に許可を得てから来たという。就労が禁じられ、在留資格がないため多くは健康保険への加入もできない。医療を受ければ全額自己負担となり、月20万円に満たない妻の給料だけでは費用を工面できず、複数の知人から計約75万円を借金した。男性は「僕を信用して貸してくれた。絶対に返したい」と言って、2枚の借用書を記者に見せてくれた。

 男性を問診した越永守道院長は「血圧も高いけれど、腰をまず何とかしないと」と語りかけ、医療ソーシャルワーカーに相談するよう促した。男性はアドバイスを受け、妻の勤務先の保険へ入れるよう交渉することにした。アミーゴス事務局長の長澤正隆さん(65)は「必要があれば、我々も交渉に加わってあげるから、連絡してね」と自分の連絡先を教えた。

 男性のことが気になり後日、群馬県にある自宅を訪ねた。最寄り駅から車で約30分。部屋は、男性が以前勤めていた産業廃棄物処理会社の2階にあった。境遇を見かねた会社が家族3人のために無料で貸してくれたという。家は掃除が行き届き、玄関や居間にはたくさんの家族写真が飾られていた。「娘は本当に賢いよ。成長が楽しみ」とうれしそうに話す姿は、どこにでもいる子煩悩な父親だ。就労できないため、炊事や掃除などを担当する。昼時だったため、記者のために手早く、卵料理と大根の葉の炒め物を振る舞ってくれた。香辛料がきいていて実においしかった。

 次第にうちとけ、境遇を話してくれた。男性は首都ダッカの北西約100キロの貧しい村で生まれた。4人きょうだいの3番目で、16歳の時にブローカーの手引きで来日し、群馬県内の生コン会社や鉄鋼会社で働いた。自分の生活費3万円以外は全て実家への仕送りに充てた。弟を大学に進学させることができたのが誇りだ。産廃処理会社は2000年から働き始めたが、ビザは切れており、超過滞在となり、入管に収容されたという。一方、バングラデシュでは、両親が貸していた店が何者かに燃やされた。兄は殺害され、母も傷害事件に巻き込まれて村を離れた。男性は政治が絡んでいるとみており、帰国すれば自分の命が危ないと主張。収容後、難民申請をして12年に仮放免となり、同じ会社へ戻った。

 この…

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吉田卓矢

1976年生まれ、兵庫県明石市出身。2005年入社。奈良支局、高松支局、大阪科学環境部、福井支局次長、水戸支局を経て、2019年秋から統合デジタル取材センター。原発や震災・防災、科学・医療などを中心に取材してきた。

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