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勧酒詩選

お正月のお屠蘇って? 漱石が飲んだのはどんな酒だったのか

本格的な屠蘇器があると、お正月も華やいだ雰囲気になる=花澤茂人撮影

 甘からぬ屠蘇(とそ)や旅なる酔心地        夏目漱石

 令和最初のお正月がもうすぐ来る。そこで、お屠蘇の話となるのだが、この時期、自家を離れて旅先で過ごす方も多いのではないかと思う。

 漱石の句からは、そういう旅のお屠蘇の微妙な心境がうかがわれ、興味深い。酒の味そのものに違和感があるのか、家でのお屠蘇とは何か気分が違うのか。

 大みそかの夜、屠蘇器に入れたみりんや日本酒に、肉桂(にっけい)、山椒(さんしょう)、防風(ぼうふう)、桔梗(ききょう)といった生薬が入った屠蘇散の小袋を浸しておく。翌朝にいただくと、無病息災に効く。これがお屠蘇の基本的なあり方だと思うけれど、みりんか日本酒かというのは大差だ。その土地土地において、お屠蘇の味が違ってくるのは当然なのである。

 筆者も、相方の実家でお屠蘇をいただく機会が多くなった。旅先、アウェーでの屠蘇だ。その熊本県では「肥後の赤酒(あかざけ)」という甘いお酒がベースになる。

 そのお屠蘇がうまいのだ、と言いたいこともあるのだが、実は、漱石の先の句のお屠蘇は赤酒の屠蘇ではないかと思うのである。

 句がつくられたのは、漱石が熊本の第五高等学校教師だった時代。「夏目漱石集」(筑摩書房「現代日本文学全集」)の年譜などによると、1897(明治30)年の12月末から正月にかけて、漱石は同僚で友人の山川信次郎と、熊本県玉名市の小天(おあま)温泉に遊んで作句したとある。この句は他の句とともに翌98年の1月初め、正岡子規に句稿として送られたものなので、赤酒のお屠蘇だという推測が成り立つのである。

 なお、小説「草枕」に出てくる那古井の温泉場とは、この小天温泉のこととされている。また、「三四郎」には、上京してきた三四郎が熊本で常飲していた酒として赤酒が登場する。

 ところで、屠蘇とは難しい言葉なので調べると、すぐに外来の風習であることがわかった。中国伝来なのである。

 その起源であるが、上海出身の張競・明治大教授(比較文化学)によると、長江中流域の年中行事を記した6世紀の「荊楚(けいそ)歳時記」に屠蘇酒の記載があるのが、屠蘇の存在を示す記録として古いそうだ。ただ、もっとさかのぼらせる説や、起源の地について西域由来を主張する説もあるという。

 怪しげな俗説も結構まかり通っているようだが、唐代には杜甫らの詩に出てくるまでに広まり、次の宋代には相当に盛んになったことは確実に言えるそうだ。

 ところで、現在の中国でのお屠蘇の様子はどのようなものだろうか。

 張競さんの著書「中国人の胃袋」には、旧暦の大みそかの夜、遠方の家族も戻ってきて、ものすごいごちそうを前に一同が…

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伊藤和史

1983年入社。岐阜支局、中部報道部、東京地方部、東京学芸部、オピニオングループなどを経て、2019年5月から東京学芸部。旧石器発掘捏造(ねつぞう)事件(2000年)以降、歴史や文化財を中心に取材

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